高まる「台湾海峡リスク」
習近平政権の戦略とは?
台湾問題が揺れている。
台湾海峡リスクが高まっている。中国共産党指導部、解放軍は、台湾内外で発生している動向にかつてないほどに警戒を高め、神経質になっているように見受けられる。米国は、これまでの「戦略的曖昧性」(strategic ambiguity)を放棄し、自由や民主主義といった価値観を共有する台湾を中国の軍事的脅威から守るべく、外交や軍事を含め、「米国は台湾と共にある。米国は台湾を守る」という姿勢を強めている。台湾当局もバイデン政権の「台湾防衛論」に乗っかり、米台連携、米台共働という姿勢をかつてないほど前面に押し出している。
そんな米台の動きに、習近平総書記(以下敬称略)率いる党指導部は、忍耐し続けることができるのか。軍内、国内で高まる「これ以上何を我慢する必要があるのか?」「台湾は独立的な動きを見せ、米国がそれを支持しているのは明らかだ。この期に及んで武力で統一しない理由があるのか?」といった声や圧力に、どう向き合うのか。
いくら政権、国家にとっての悲願とはいえ、中国経済は停滞し、国際的に孤立する状況に耐えられない、故に「強硬派」を抑え込むという政治的判断をするか。それとも、今こそ武力行使のタイミングだ、歴史に名を遺せる、党・軍・国家内における威信を一層高められるという判断に至るのか。
筆者の基本的見解によれば、「平時」であれば、武力行使のタイミングは時期尚早、原則「現状維持」(status-quo)だと習近平は情勢を捉えている。武力行使といってもいろいろなやり方があるのは論をまたない。解放軍が台湾本島を占領する、南シナ海に浮かぶ離島のいずれかに侵攻する、中国から目と鼻の先にある金門、馬祖から制圧する、などである。ただ武力行使であることに変わりはない。
習近平とて、できることなら、中台間におけるモノ、カネ、ヒトの交流を深化させつつ、両岸間で信頼を醸成しながらしかるべきタイミング、枠組みで政治的妥結を図り、平和的統一を実現することが、コスト、リスクが最も低く、故に最も国益にかなうアプローチだと考えている。しかしながら、習近平政権下における対内抑圧的、対外強硬的な政策を前に、台湾がそんな中国と一緒になることを能動的に選択する可能性はますます低くなり、皆無に近くなっている。中国が対台湾政策でいまだ放棄していない「一国二制度」を、「明日の香港」と化すことを前代未聞に恐れる台湾の有権者が受け入れるはずがない。
「平和的統一、一国二制度」という、中国共産党が公に掲げ、求めてきた国家戦略はもはや非現実的。一方、だからといって「武力的統一、一国一制度」でと逆方向に揺れるのはコスト、リスク双方とも高すぎる。