埋もれていた財産を見つけ出すデザインの力

――イノベーションを起こすためにデザインの力を活用しようという考え方はそれなりに広まってきていますが、経営そのものにデザインの力を用いるとなると、一体何をどうしたらいいのか分からないという経営者の方も多いように思われます。

 デザイナーの知り合いなんていない、デザイナーの生態が分からないという経営者の方がほとんどでしょうから、その門をたたくまでのハードルを高く感じるのはよく分かります。しかも、デザイナーはその作家性こそが売りだった時代も長いですから。あのデザイナーにポスターを作らせたらすごい、とか。

 経営者には、自社で抱えている課題を解決したいのに、そこにデザイナーを呼んできたところでそのデザイナーの「作品」を押し付けられるだけなんじゃないか、という警戒感を持つ方も多いかもしれません。

 また、これまでは、まずはポスターなりシンボルマークなり商品パッケージなり、作るべき物が決まって初めてデザイナーに依頼をするのが普通だった。でも、経営そのものにデザインを生かすには何をどう依頼したらいいのだろうと戸惑う方もいるでしょう。

 しかしデザイナーにも、対象をポスターや商品に絞って水際立ったセンスやスキルを発揮する職人的・作家的なデザイナーもいれば、ビジネスや社会を俯瞰的に見て、企業の課題やミッションなどぼんやりとしたものを言語化し、具現化することを仕事とするデザイナーもいます。後者が、経営に求められるデザインです。

――佐藤さんは後者の仕事をこれまで数多く手掛けてこられました。経営者の方とはどのようにコミュニケーションを取られているのでしょうか。

 デザイナーへの警戒感がある方には、私は何かを強制することはないとあらかじめお伝えするようにしています。また、渾身の案を一つだけ持っていって大々的にプレゼンするのではなく、むしろ、「例えばこんなことをしてみるのはどうでしょうか?」という感じで軽い思い付きを幾つかのアイデアとして雑談のように投げ掛けていきます。

 そうした思い付きが採用されるかどうかは問題ではありません。やりとりの中で、その経営者が重視されているのは何か、どこが譲れない部分なのか、何にこだわっているのかなどが浮かび上がってくる。それが知りたいのです。

 そのようなやりとりの上で、CIの仕事が始まったとします。そのときに一番大事にしているのは、企業の中にいると見えないものを外部の視点からあぶり出すことです。例えば生活者としての目線で、その企業にどんなイメージを持っているかなどです。

 一生活者としての私は、その企業のことや商品について事細かに知っているわけではありません。それでも、なんとなくその企業のイメージに好感を持っていたり、なんとなくその企業の作っている商品を好きだったりします。そういう「なんとなく」のイメージは私以外の多くの人も共通して持っている可能性が高い。

 いったい何がその企業のイメージや商品への好感を生み出しているのか。「なんとなく好き」の背景にあるものを見つけ、分析して言語化するのが私の仕事です。研究開発の現場や工場にお邪魔して、さまざまなお話を聞かせていただくうちに、その企業の価値を支えているもの、すなわち「財産」が見えてきます。

 その財産は内側にいる人からするとあまりに当たり前で、「それの何がすごいのか?」と思うようなことだったりします。だからそれをわざわざ社会に向かって会社の個性として打ち出そうとはされてこなかったのだけれど、私は「いやいや、これはすごい財産ですよ。ぜひCIに生かしましょう」と提案する、といった対話になることが多いです。

 また、最近よく「パーパスブランディング」などといわれますが、そもそもの理念の言語化が緩いまま始めたことでシンボルも緩いものになってしまう、というケースをしばしば見掛けます。

 このようなとき、デザイナーはグラフィックデザインだけを頑張っても駄目なんです。パーパス、あるいはミッション、ビジョン、バリューといったことをクリアに言語化するところからサポートする必要があります。