ニューノーマルの時代にはこれまでの勝ちパターンは通用しない。変革期に必要な新しい思考回路が求められている。それがアーキテクト思考だ。アーキテクト思考とは「新しい世界をゼロベースで構想できる力」のこと。『具体⇔抽象トレーニング』著者の細谷功氏と、経営共創基盤(IGPI)共同経営者の坂田幸樹氏の2人が書き下ろした『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法』がダイヤモンド社から発売された。混迷の時代を生きるために必要な新しいビジネスの思考力とは何か。それをどう磨き、どう身に付けたらいいのか。本連載では、同書の発刊を記念してそのエッセンスをお届けする。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。

世界一低い日本企業の従業員エンゲージメントを高めるための、3つの方法Photo: Adobe Stock

 前回は、日本企業における従業員のエンゲージメントが世界的にも最低レベルにあるものの、過去の経営理念を持ち出してもそれを高める結果には繋がらない理由について解説しました。

 今回は日本企業がエンゲージメントを高めることができる、3つの方法を紹介したいと思います。

経営者自らが会社の未来像をしっかりと考える

 本連載で繰り返し解説しているとおり、アーキテクト思考のもとになるのは具体と抽象の行き来です。その起点となるのは図のステップ0にあたる、バイアスのリセットです。

 ステップ1の具体的事象観察をする際に、「今の社員は分かっていない」「これはこういうものだ」というバイアスを持っていては、現状を正しく認識することなどできませんし、ひいては現実的な未来像など描けません。

 具体的な事象の観察とその抽象化の作業に、それぞれどの程度の時間をかけるかは経営者の特性によります。

 例えば私の場合、より多くの情報をシャワーのように浴びた方が事象の抽象化をしやすいので、できるだけ現場へ足しげく通い、多くを見聞きすることを重視しています。一つのプロジェクトで100社以上の現地企業を訪問することもありますし、マレーシアでの結婚式に実際に参列したり、インドネシアの学校に出向いてヒアリングを実施したりもします。そうすることで業界全体を構造的に把握して、新たなビジネス機会を探っています。

 一方で、私が尊敬する経営者の一人は、入手した具体的な情報をもとに、一人部屋にこもって考えることに多くの時間を費やすことで画期的なアイデアを数多く生み出しています。自身の営業マンとしての経験から、新人営業マンが即戦力となるようなシステムを考案することで、衰退する業界において成長を続けています。

 いずれにしても重要なのは、まず経営者自身が先入観を捨てて具体的事象に目を向け、そこから会社の未来像をしっかりと導き出すということです。VUCAの時代(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)には将来を簡単には予測できませんが、だからこそ経営者自身が会社の未来像を明確に持っておく必要があります。それを怠り、流行りに流されパーパスなどを作文しても全く意味がありません。