――暴力団といえば、覚醒剤や飲食店からのみかじめ料などが主要な資金源というイメージですが、企業対象暴力は彼らにとってどれくらい重要なのでしょうか。

 暴力団にとって、企業対象暴力はでっかいシノギです。みかじめ料は多くても1カ月に数百万円規模で、条例も厳しくなり、得られる金額に対してリスクが高いです。覚醒剤も末端で売る場合は、そこまで大きい金額ではありません。しかし、企業恐喝はケタが違います。数千万、時には億単位のカネが動きます。

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 しかし、企業相手の場合は暴力団の組員が直接表には出られないので、ブローカーや、カネに困って暴力団に取り込まれた企業経営者をうまく使って、企業に接近していきます。スキャンダルを使ったり、企業にとってうまい話を持っていき、食らいつく機会をうかがっているのです。

 今の時代、暴力団と直接付き合いをするような企業は皆無だといえます。問題は、暴力団ではない、周辺者をどう判断するかです。既に述べたように、最初は暴力団の背景がない不良でも、いずれどこかの組織の影響下に入ることが多いです。また、不振企業がいつの間にか、暴力団の資金に依存していることもある。こうした取引先の変化は、日々の取引や、相手と会った際の違和感から判断していくしかありません。

 暴排条例ができて、暴力団は目に見えて少なくなりました。しかし、企業対象暴力は形を変えて今もうごめいています。暴力団と直接、対峙(たいじ)してきた私たち元警察官の知見が、企業の皆様の助けになれば良いと思っています。