1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じだろうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏だ。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』がダイヤモンド社から発売された。閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのか? 同書の中にはこれからの時代を切り拓くヒントが散りばめられている。同書発刊を記念してそのエッセンスをお届けする本連載。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。

「常識」にしたがっているだけでは、革新的な製品は生まれないPhoto: Adobe Stock

挑戦することで、世界初の素材を開発することに成功

 前回ご説明したようにアーティストとのコラボレーションには、大変な難しさがあります。

 アートは〇点か一〇〇点かの世界なので、「八〇点でOK」というわけにはいかないのです。そういう意味で苦しさがありました。それでも挑戦することで、世界初の素材を開発することに成功しました。

 私たちはのちにこの技術を応用して、レストランのプライベート・ルームなどに使用できる、個室と外を隔てるための遮蔽(しゃへい)用のカーテンを開発しました。このカーテンは、いまではザ・リッツ・カールトンホテルのレストランなどで使用されています。

 カーテンはふつう「遮光」か「レース」かというように、光を遮(さえぎ)るか、通すかで異なる素材が使われています。

 しかし、私たちが開発したカーテンは、ある部分は光を通し、ある部分は通さないという二面性があるものです。遮光とレースとの中間の、木漏れ日のような光の世界を生み出すことができるのです。

「常識」にしたがっているだけでは、革新的な製品は生まれない一方から見ると透けるが、もう一方から見ると透けない二面性を持った織物を開発

 個室からは外が透けて見えるけれども、外からは個室の中は見えない。プライベート・ルームのカーテンには最高の素材です。

 プライバシーを守りつつ外の空間に開かれている、現代の繊細なニーズに合う素材だと思います。