金相場が11月に5か月振りの高値を付けた「2つの理由」Photo:PIXTA

FRBの利上げ前倒し観測などで8月に安値を付けた金相場。その後は一進一退を繰り返しながら上昇に転じ、11月16日には高値を付けた。背景には、主要国における利上げペースの鈍化予測、インフレの高進によるスタグフレーション懸念がある。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)

FRB利上げ前倒し観測などで
8月上旬に3月下旬以来の安値

 金融政策・景気・インフレなどに敏感な金相場は、6月1日に1トロイオンスあたり1916.40ドルと1月以来の高値を付けた後、下落に転じ、8月9日には1684.37ドルの安値を付けた。その後、一進一退しつつも上値を切り上げ、11月16日には1876.90ドルまで上昇したが、足元は1800ドルを下回っており、やや不安定な動きとなっている。

 8月は、上旬に、FRB(米連邦準備制度理事会)のクラリダ副議長による「2022年末までに利上げ環境が整う」とのタカ派的発言や、7月の米雇用統計で堅調な就業者数が示されたことを受けて、量的緩和縮小や利上げが早期に行われるとの観測から長期金利が上昇し、金相場が急落する場面があった。

 同月9日には、一時1684.37ドルと3月下旬以来の安値を付けた。その後、米消費者物価の落ち着き、ミシガン大学消費者信頼感指数の急低下、中国景気指標の減速、デルタ株の感染拡大、アフガニスタン情勢、ジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演などを材料に持ち直し、月末にかけて1800ドル台を回復した。

 9月は、序盤は、米雇用統計で就業者数が市場予想を下回ったことが金には買い材料となり、一時1830ドル台まで上昇したが、失業率低下や賃金上昇が金の弱材料とみなされ、レーバーデーの休日明けは相場の下落幅がやや大きくなった。

 その後、16日に米小売売上高が予想外に増加したことや、21~22日開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)の経済予測で利上げ想定時期が前倒しされたことが金売り材料になった。29日には一時1720.49ドルと1カ月半ぶりの安値を付けた。

 もっとも、中国不動産大手の恒大集団の経営危機への警戒感もあって安全資産である金はやや買い戻される場面もあり、月末には米失業保険申請件数の増加もあって1700ドル台半ばまで買い戻された。