世界トップクラスのAI&コンピューター研究者たちは気づいている
しかし、これらの検証結果からも漏れている項目があった。というのは、この検証では研究者たちがそれぞれの専門の立場から有効と思われる対策をリストアップして80種にまとめ、その中でランク付けを行ったためだ。つまり、専門外であれば意識されない温暖化の要因や対策もあり得ることになる。
たとえば、筆者がスイス連邦工科大学の物理学教授で世界的な量子コンピューティングの研究者でもあるガブリエル・アプリ博士にインタビューした際に、博士は、実際のところ「ジェット旅客機よりも地球環境に悪影響を与えているのはコンピューターである」と指摘した。その分かりやすい例として挙げられたのは「ネット検索を1回行うと、最大で紅茶1杯分を沸かせるだけのエネルギーを消費する」ということだった。
また、同じく筆者が、NEC北米研究所の機械学習部門長やFacebookのAI研究においてリーダー的な立場にある研究者たちを取材した際にも、彼らはわずかな糖分で複雑な処理を行える人間の脳の偉大さをたたえるとともに、現在のAIが抱える非効率さの改善に意欲を燃やしていた。その際に指摘されたのは「Googleのデータセンターの年間電気料金は、同社の全社員の年俸の合計よりも多い」という点だ。
もちろん、その中には再生可能エネルギーの電気料金も含まれ、データセンターを冷寒地に造ることで冷却費を抑える取り組みもなされている。また、アップルの場合には、すでに企業運営における100%カーボンニュートラルを達成し、2030年までに製造サプライチェーンや製品ライフサイクルまでを含めて気候への影響をネットゼロ(CO2の排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする)にする意向を表明しており、同社が調達する再生可能エネルギーの80%以上が、同社の手掛けた電力プロジェクトからのものである。
それでも、他のクラウドサービスも含め、情報化社会の便利な暮らしが膨大なエネルギー消費によって支えられていることは否定できない。つまり、今のままの状態で社会や企業のデジタル化とAIの利用を進めるならば、地球環境への悪影響もさらに拡大する可能性が高いといえるわけだ。