東芝と三分割戦略は相性最悪
それでも「三分割」に踏み切った経緯とは?

 そう言うと、「中国企業に転職するなど売国奴だ」と思う読者の方もいらっしゃると思います。しかし、このまま飼い殺しになるか新天地で活躍するかの選択肢に悩んで移籍するエンジニアの心中を思えば、人材流出は本人の責任ではなく、東芝経営陣の責任だと私は思います。

 事実、東芝の研究所の技術力は日本の中でも飛びぬけて高い。新素材の太陽光パネルや製造現場での不良を発見する人工知能技術などは、デバイス会社とインフラサービス会社にとって本当は分割できない重要な資産のはずです。

 さて、そのような懸念にもかかわらず、世論を含めて東芝の三分割やむなしの空気が流れている理由は何でしょうか? こうなってしまった過去の経緯を考えると、私も「これは仕方がない」としか言いようがありません。

 そもそも、東芝は2015年に発覚した不正会計とその後発生したアメリカの原子力発電孫会社の巨額損失で、倒産の瀬戸際まで追い込まれた会社でした。不正会計を引き起こした3社長の失敗で、稼ぎ頭だった半導体メモリー事業をファンドに売却し、医療事業、白物家電事業、テレビ事業すらも手放します。ちなみに、東芝ブランドを象徴していた『サザエさん』の提供を手放したのもこの余波でした。

 さらに2017年、債務超過を回避するために複数の世界的なファンドから6000億円の資本を調達します。ここで東芝の歯車がまた一つ、狂います。

 モノ言う株主からの圧力が高まり、2020年の株主総会ではモノ言うファンドが社外取締役2人を選任するように提案。これをなんとか否決したのですが、騒動は続きます。ファンドの圧力を逃れる目的で、当時トップだった銀行出身の車谷暢昭社長が、かつて自身が日本法人のトップを務めた別のファンドに東芝を買収させようと画策。この提案が失敗して、車谷社長は辞任します。

 そして、決定的だったのは2021年6月に問題になった総会介入騒動です。株主総会でのファンド出身取締役2名の否決に際して、東芝経営陣が経産省と連携して圧力をかけていたというスキャンダルが発覚。東芝の役員2名が退任する事態に陥りました。

 結局、2021年の株主総会では、東芝側に近かった取締役会議長を含め2名の人事案が否決され、3人が新しく取締役に加わります。そうして、東芝の取締役会8人のうち6人がファンドも賛成する社外取締役という体制となり、冒頭の「戦略委員会」も彼ら社外取締役が主導したわけです。

 この経緯を振り返ってみれば、もともと3社長が不正会計に手を染めて上場廃止危機を迎えた段階で、東芝は死に体だったことがわかります。それが総会スキャンダルでさらに追い込まれ、2021秋年になっていよいよ解体されることになりました。