「ツタヤがピザハットの買収を計画しているとする。はたして、これはよいアイデアだろうか?」――なんの前ぶれもなく面接官から、このような質問を投げかけられるのが、戦略コンサルティング会社の面接なのだという。こうした事前の準備なしには対応不可能と思われるニッチな分野で、10年以上にわたって世界トップの位置を占め続けているベストセラーの最新版、それが『戦略コンサルティング・ファームの面接試験 新版』である。著者はハーバード大学就職課を皮切りに世界中で10万人以上の戦略コンサルタント志望者の面接を指導してきた人物。面接試験対策だけでなく、コンサルタントのような戦略思考が身に着けられると評判の本書から、ポイントを紹介していく。(訳:辻谷一美)
戦略コンサルタントの計算問題への対処法
戦略コンサルタントの面接試験で計算問題が出題されることはあるが、今まで見たこともないような数式が出ることはない。ケース面接でよく出されるのは、比率、ROI(投下資本利益率、Return on Investment)、損益分岐点、加重平均、NPV(正味現在価値、Net Present Value)、桁数が多い掛け算・割り算といった計算である。
これらの計算を行うときに電卓は使えない。面接官が電卓を使わせない理由は、あなたがどのような考え方で計算をしているか、答えを出す前にきちんと再確認を行っているかを見ているからだ。
私が見てきた教え子の中でも、計算をどのように行うかは人によってさまざまだ。指数を駆使する学生もいれば、何でも分数で考える学生もいた。面接官は、受験者がどのような方法で問題を解いているかに興味があり、効率的に計算するような工夫をしているかを見ている。
たとえば、「昨年の欧州のペット市場規模は300億ユーロだった。毎年5%市場が成長していくと仮定した場合、5年後の市場規模はどれくらいか?」という問題が出されたとしよう。
この問題に対して、多くの学生は、まず300億×1.05を計算して1年後の市場規模を計算し、その数字にまた1.05を掛けて2年後の市場規模を計算し、同様の計算を5年後まで繰り返すという方法をとる。しかし、これはあまり良くないやり方だ。誰だって、人が同じ計算を3~4回繰り返しているのを見て面白いわけがない。この問題に対するもっと良い対処法は、次のようなものだ。
「毎年5%の成長が5年間続けば、5%×5年の25%となります。ただ、この数字は複利の効果が含まれていないので、実際の5年間の成長率は25%よりも大きく、30%まではいかない数字となります。つまり、28%前後が複利効果も含めた5年間の成長率だと推測できます。すると、5年後の市場規模は300億×1.28を計算して384億ユーロと試算されます」
答えを出す前の再確認
たとえ大学で数学を専攻している学生であっても、桁数が多い数字の計算は苦手としている人が大部分だ。ケースの中で掛け算を行う必要があり、その正しい答えは3.2億であるにもかかわらず、あなたが32億と計算してしまったとしよう。このとき、問題の文脈からして32億という数字があまりに不自然なものであれば、面接官はあなたの答えに対して眉をひそめるだろう。その理由は、あなたが計算ミスをしてしまったからではなく、答えを出す前に、数字に違和感がないかをきちんと再確認していないことがわかるからである。
採用面接などの大事な場でこのようなミスを犯す人は、クライアントの前でも同じミスを犯すだろう。面接官はそんな人間を信頼できないし、当然、採用もしない。ケースの中で計算を行う必要があるときは、必ず「この数字は妥当だろうか? 不自然な数字ではないだろうか?」と再確認する癖をつけよう。再確認の結果、妥当であると判断すればそのまま答えればよいし、不自然な数字だと思うのであれば計算し直す必要がある。桁数の多い数字の計算でなるべくミスを犯さないように、例示のような掛け算表を活用して学習しておくことをお勧めする。
面接の場で計算を行うことは、私生活の中で計算を行う場合とは状況が異なる。通常の私生活では、自分の部屋などで電卓を使って計算すれば、それでおしまいだ。これに対して、面接の場では電卓が使えず、自分の目の前に面接官が座って、あなたの計算作業を逐一見ている。ケース面接では、あなたがどのような考え方やプロセスで答えを求めていくかを、面接官に伝えながら計算するようにしたほうがよい。
こうすれば、あなたが途中でミスを犯したとき、面接官はすぐに誤りを指摘してくれるだろう。これをせずに、黙々と計算して誤った答えの結果のみを伝えれば、面接官は「それは間違ってます」と言うだけだ。あなたはどこでミスをしてしまったのかがわからず、最初から計算をやり直さなければならなくなるし、面接官にとっても時間の無駄となる。
次の用語は、計算式のみならず、その意味も含めて理解しておくべきだ。
●利益=収益(売上高)-費用
●損益分岐点数量=固定費/(単位当たり売上高-単位当たり変動費)
●損益分岐点価格=(総固定費/総数量)+単位当たり変動費
●損益分岐点売上高=固定費/(1-[変動費/売上高])
●限界利益=売上高-変動費
●利益率=利益/売上高
●ROI(投下資本利益率)=投資から得られる利益/投資額
●年間成長率=(X年度の数値/初年度の数値)^(1/[X年-初年])-1