12月に極端な売り上げの山
日本酒は年に1回だけ買う商品 

 そもそも、ほとんどの消費者は、自分の好みの味を確立できるほど頻繁に日本酒を買い求めているわけではない。井谷氏の調査によると、1年間52週の売り上げの平均を100%とすると、12月の年末に約460%という高い“山”ができるが、その他の時期は100%前後を行き来し、ほぼ売り上げが変わらない。つまり、多くの消費者にとって日本酒は“普段飲み”の酒ではなく、量販店で年1回だけ買う商材となっているのだという(グラフ参照)。

1年間の週別日本酒消費量Sake Experience Japan提供
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 もちろん、日本酒に詳しい店員を配している百貨店の酒売り場や、日本酒の専門店もある。多少でも日本酒にこだわりを持つ人なら、専門家のアドバイスを期待してそういう店に行く。しかし、日本酒への関与度がさほど高くない人や、専門店が多くない地方都市の消費者は、そもそも助言をもらった商品選択すらできない。

「大体、居酒屋で日本酒を頼んでも、ワインのようにボトルで出てくるわけでなく、お店の人が一升瓶からグラスや升などに注いでくれたあと、瓶は持っていってしまうので、日本酒好きな人に勧められた銘柄をいろいろ飲み比べても、最後はテーブルの上でどれがどの酒が見分けのつかない状態が広がる。あらゆるシーンにおいてブランドが育つ環境になっていないんです。

 消費者が量販店で日本酒を選ぶ際、せめてもの手がかりにとラベルを見ても、8つのカテゴリー名と商品名、精米歩合くらいしか書かれていません。弊社の調査によると、日本酒は産地による味わいの違いが選択する基準になっていませんし、味のヒントになるような表記はどこにもなく、選択において極めて高いハードルがあるわけです」

 こうした状況を変えるべくワインに学ぶとすれば、前編で事例を挙げたように、ラベルやネックリンガーによる情報提供は不可欠だろう。