歴史や伝統、蔵元のこだわりは
消費者が真に求めている情報か

 そして、その際に大事なのは、本当に消費者にとって価値のある情報を提供することだという。

「詳しい人しか飲んではいけない酒」日本酒が致命的欠陥を克服する方法いたに・たけし/Sake Experience Japan代表。2006年アサヒビール入社、2010年よりワイン事業部でフランス、イタリア、スペイン、オーストラリア、チリ、アルゼンチンを担当。2015年、「サンタ・ヘレナ・アルパカ」のブランドマネージャーとして同商品を輸入ワイン市場初の100万ケース販売を達成し、アサヒビール社長賞受賞。2016年9月にSake Experience Japanを設立。国際利き酒師、JSA ソムリエ、WSET Wine Level3、エジンバラ・ウィスキー・アカデミー Single Malt Diploma 通訳案内士の資格を保有。

「何百年の歴史があるとか、当主は何代目だとか、そういう情報に反応を示す消費者もいますが、それだけで売れるわけではありません。また、一部のラグジュアリーブランドを除き、『消費者は蔵元がこだわって造ったものを飲みたいに違いない』という幻想を、蔵元は捨てなけらばならないと思います。そうではなく、消費者にとってうまいものを造り、消費者の価値に合致する情報を伝達するという基本に立ち戻るべきなんです。

 そもそも消費者が期待する味わいが、買う前から分かるような訴求を商品自体からしない限り、消費者は売り場で自動的に手を伸ばしてくれることはありません。

 我々の調査によると、現在の日本酒の消費者は『香りへの期待』と『その香りから期待する中身の満足と実際に飲んだ際の味わい』が期待通りの結果になった時、初めて満足し、その結果としてリピートにつながると分かっています。

 まずは、消費者が期待する内容を記載していくこと。それによって消費者のトライアルを促進し、中身が消費者の満足度と合致すればリピートを生むことにつながるでしょう。

 マーケティング面において、日本酒がワインに劣後している部分は多い。しかし、それだけに伸びしろが大きいことも意味する。日本酒が海外に出ていくために、それ以前に国内でもっと存在感を出していくために、やるべきことは山積している。

「今、木桶(きおけ)仕込み、甕(かめ)仕込み、アッサンブラージュ(ブレンド)、低精白(ほとんど磨かず米のうま味を表現する)、そしてオーク樽熟成など、さまざまなチャレンジが日本酒業界にあります。自分も、外野から好き勝手言うだけでなく、消費者起点の商品開発に資する活動を続けたいと思っています」