地方都市で高級店を展開する難しさ

 致命傷となったのが、張勇氏が昨年の新型コロナウイルス禍を「9月には収束する」と判断し、さまざまなビジネスが縮小する中で価格の下がった店舗を手に入れて、今後の「大展開」に備えようとしたことだった。前掲のとおり、コロナ禍の昨年も店舗拡張の勢いは衰えるどころか、拡大している。その結果が前述の収支報告に反映されたのである。

 また、急速な拡張によって店舗ネットワークは北京や上海などの大都市から、地方省のトップ都市、さらには地方の2番手、3番手の都市へと広がっていった。しかし、海底撈はもともと「高級火鍋」の価格帯で展開しており、最低消費額は定めていないが、1人当たり最低でも500元(約9000円)はかかる。だが、地方の中小都市では一般の火鍋消費は通常1人100元(約1800円)程度。人々がそうそう足繁く通うのは無理だった。

 さらに都市における店舗分布密度が高くなった結果、それぞれの店舗の収入構造に影響を及ぼし始めた。資料によると、海底撈の平均テーブル回転率は、2018年が1日約5回、2019年は同4.8回だったものが2020年には3.5回となり、現時点では3回にまで減ったという。とはいえ、一般的な火鍋業界の平均回転数は1日当たり2.25回というから、やはり海底撈の人気はまだまだ高いといえるのだが。

海底撈の“キツツキ”計画

 2019年以前の機関投資家向け予測では、海底撈の支店開設上限は1100店舗から1600店舗とされていた。だが、2020年に積極的な拡張を進める様子を受け、その予測は2000から4000店舗へと引き上げられ、今年になってもそれを5000店舗とする予測も出現していたという。

 だが、張勇氏は今年6月に投資家との面談会で、「根拠のない自信に突き動かされていた」と反省の弁を述べている。そして発表されたのが、年内に理想的な営業成績を上げられない国内外の300店舗を閉鎖する一方で、平均テーブル回転率が4回に戻らない限り、新店舗の開設はしないとする「キツツキ」計画だった。