従来、中国では「養児防老」(子どもを産んで老後の面倒を見てもらう)、「多子多福」(子どもが多いほど幸せ)という言葉があるように、「子どもがたくさんいたら、安心」という考え方が根付いていた。

 また、昔は「三代同堂」や「四代同堂」(3世代、4世代が同居)といって、親世代や祖父母世代と一緒に住んで高齢者を家族みんなで支えることが当たり前だった。

 ただ、それは経済の発展とともにほぼ崩壊した。

 農村部では、若者が出稼ぎで地元を出て都会で暮らすようになり、核家族化が進んだ。また、都会でも厳しい競争社会を勝ち抜く上で仕事や家庭と、親の面倒の板挟みになっている人が少なくない。特に一人っ子たちが一番恐れているのは、親が倒れることである。

 現在、中国では高齢者となる世代のほとんどが、「一人っ子」の親だ。そして、約40年前に生まれた「一人っ子」自身も中年となり、多くの人が親になっている。1組の夫婦の上には4人の親がいて、下には子どもが1人という「4・2・1」の家庭構造となっている。夫婦2人が自分の子どもを育てながら、双方の親の面倒を見なければならない状況である。

 そうした中で、今回発表された国の「意見」は大きな波紋を呼んだ。多くの国民にとって、今さら手のひらを返して「親の面倒は自己責任だ」と言わんばかりに、一人っ子に親を介護する責任を押し付けられたと感じられたからだ。

 ネット上では、「一緒に住めと言われても、不動産価格は高いし、近くに引っ越そうと思ってもとても手が出ない」「日本のように2世帯住宅の発想が今まで全然なかったし、たとえ一つ屋根の下で一緒に住むとしても、せまくてお互いに邪魔で、姑関係が悪くなるだけだ」といった書き込みが多く見られた。

少子高齢化対策に奔走する政府
国民の反応は冷ややか

 中国政府は2015年に一人っ子政策を廃止した。その後、二人っ子、三人っ子と続けて出生政策を緩和。さらに、今年に入ってから、少子化の要因とされる不動産と教育費の高騰にメスを入れた。

 国は校外学習塾の禁止や不動産相場の抑制政策などで、子育てしやすい環境の整備に注力している。地方政府は、かつて2人以上の子をもうけた親に対して罰金を科していたが状況は一変し、今は子育て世帯への現金や新生児への高額なお祝い金を支給する動きも活発になってきている。北京市は今年5月、国の規定する育児休暇に加えて、さらに30日間の育児休暇延長と配偶者の15日間の休暇を奨励する支援策を打ち出した。こうした動きに追随する地域も続出している。