デザインは言語性を持っている

 創造性の謎を解き明かすために、まず注目したのはデザインの持つ言葉的な性質でした。表現は、それ自身が伝達性を持っています。認知科学にはモノが意味を伝達する性質を持つことを示す「アフォーダンス」という概念がありますが、これはモノと話しているような現象にも思えます。

デザインと言語は本当によく似ていた。たとえ話や誇張やイントネーションのような言語的性質があり、また言語的に伝達しやすいアイデアを、明快なコンセプトとして捉えているようだ。
(進化思考 p76より)

 こうしてデザインと言語学を比較することを思いつき、休学していた大学院を卒業するために「デザインの言語的認知」というテーマで修士論文を書きました。2006年のことです。それからこの発想の言語的ルールを「デザインの文法」と呼び、イノベーション教育や企業の人材育成などの場で、多くの人に教えるようになりました。

進化にはパターンがある

 しかしデザイナーとして世の中の様々な形態を観察すると、奇妙なことにも気づきました。私はもともと生物のデザインに惹かれていましたが、なぜか生物のデザインにも言語的パターンとの共通性が見受けられたのです。発明と生物は全く違う現象なのに、そんな事はあり得るのか。不思議に思いながら、パターンの探求は10年近く続いていきました。これらの生物の進化・言語学・デザインの類似性の探求から、進化思考は生まれました。

生物や発明には、ある種の共通する変異パターンが存在している。そして面白いことに、これは漫才師の笑いのパターンや、アートやデザインに見られるパターンにも共通するのだ。
(進化思考 p59より)