京都の伝統工芸・西陣織のテキスタイルがディオール、シャネル、エルメス、カルティエなど世界の一流ブランドの内装などに使われているのをご存じでしょうか。日本の伝統工芸の殻を破り、いち早く海外マーケット開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏です。ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている異色経営者、細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』(ダイヤモンド社)が出版されました。本連載の特別編として、今回から3回にわたってデザイナー太刀川英輔氏との対談をお届けします。太刀川氏はデザイン事務所・NOSIGNER株式会社の代表であり、山本七平賞を受賞した話題の書『進化思考』(海士の風、2021年)の著者。そんなお2人が、美意識と工芸、デザインの持つ可能性について語り尽くします。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ(構成/北野啓太郎、撮影/石郷友仁)。

変わり続ける時代の中で伝統を守るには、自分たちが変化し続けるしかない太刀川英輔氏と細尾真孝氏

伝統工芸を技術、素材、ストーリーに分解して、組み替える

太刀川英輔(以下、太刀川) 細尾君と初めて会ってから、もう10年以上になるね。

細尾真孝(以下、細尾) 最初に会ったのは、2009年頃かな。建築家の黒川雅之さんの事務所だったよね。

太刀川 黒川さんは、アジアの文化人類学などをデザインに落とし込むことをされている世界的にも建築家・インダストリアルデザイナーとして著名な方だけど、僕にとって彼は父のような方で、細尾君とも大変懇意にされていますよね。

細尾 そう。東京のお父さん的な方で、すごく影響を受けたし、弟子みたいなものだと勝手に思っている。その頃、黒川さんに「伝統工芸を、技術、素材、ストーリーに分解して、時代に合わせて組み替えたほうがいい。一回、分裂させろ」と言われたのはすごく覚えていて、それが後の、2012年にスタートさせた「GO ON(ゴオン)」という伝統工芸6社のプロジェクトにつながっていった。伝統工芸とか長く続いているものって、続いている分だけ固定観念にとらわれてしまって、「こういうもんだ」みたいな呪縛から逃れなくなってしまいがちだけど、それをいったん壊して、分解していくことで新しい可能性が開けるということ教えてくれた。