遺伝子という言語

 人類史を調べると、約20万年前のホモサピエンスの誕生から、約5万年前まで石器時代が続きます。つまり5万年より以前は、人類はろくに創造性を発揮できていないのです。約5万年前に何があったのか。実はちょうどその時期が、まさに人類が言語を発明した時期と一致するのです。これは偶然ではないでしょう。

 そしてもう一つ。進化生物学によって生物の変異は、DNAのコピーエラーが原因であることが証明されました。そしてこのDNAはほぼ、言語と同じ構造を持っていることもまた、証明されています。これは何を示しているのでしょうか。

生物進化と人間による創造、背後に共通する「言語性」とは?DNAのゲノム解析(進化思考 p81より)

言語と遺伝子の類似性こそ、言語によって人が道具を発明し、自らを進化させられた理由だと考えると、創造と進化が類似している謎が氷解する。
(進化思考 p80より)

 この二つの出来事に共通する言語性。このことが結びついて、進化思考の基盤となる仮説が生まれました。つまり進化も創造も、新しい可能性は言語構造の「言い間違い・聞き間違い」のようなエラーから発生している、という仮説です。

 そんな目で先ほどの9つのパターンを見ると、これらは言い間違いのパターンとも対応することに気づきませんか。言い忘れたり(欠失)、言い過ぎたり(変量)、反対の意味に伝わったり(逆転)、ものまねしたり(擬態)…。つまり言語エラーこそ、私たちの創造性の起源かもしれないのです。

初めに言(ことば)があった。言は神と共にあった。言は神であった。
― ヨハネによる福音書

 神様がいるのかいないのか、それは私にはわかりません。でも言語が最初にあったという聖書の一節には、不思議と一つの真理を感じます。ヒトの言語は100年の間にも変わり続けるのに、DNAという変わらない文法が40億年近くにわたって生物に流れ続けているのは、本当に不思議なことです。そして、それが証明された時代に生きているのは幸運なことかもしれません。

 進化思考の挑戦は、私たちに与えられている創造性を自然の構造から学びなおして、非創造的な教育を更新することです。教育が変われば「私たちは変われない」という固定観念と同調圧力の制約を取り払えるかもしれません。

 持続不可能と言われる今世紀だからこそ、旧来のシステムに変異的ショックを与えて、思いがけない創造的解決が生まれる可能性に賭けてみたいのです。座して死を待つくらいなら、未知の方向へともがく方が生産的だし、実際に今の生態系にいる、あらゆる生物はそうして生き残ってきました。答えがわからない時代だからこそ、変えるべきものを見いだして変異を起こしましょう。未来の人々から感謝されるような衝撃的アイデアを生み出すのは僕かもしれないし、あなたかもしれないのですから。