価値観が激しく変化し、知識が膨大に蓄積された世界では、「バックキャスティング」に分がある。目標はきっと達成できる、そう考えて挑戦する方が勝つ確率が高いのである。もう一つの重要な視点は「共領域」である。バックキャスティング思考に基づき必要な知や機能を構造化しようとしても、縦割り組織がそれを阻む。細分化された組織や個人をつなぐ紐帯が必要である。三菱総合研究所編著『「共領域」からの新・戦略』では、多様な個人や組織のつながりによって価値を創出する「共領域」を形成し、「コレクティブ・インパクト」を実現することが重要であると提言。「共領域」という言葉には、これからの日本に必要な新しい紐帯という意味を託している。
日本人の特性をベースに考えた共領域形成のためのポイントとは
あらゆる組織は分断の誘因に満ちています。企業組織もその例外ではなく、特に大企業は行政機関と並んでその典型例に挙げられます。組織の細分化が局所最適の弊害を生み出すことは、すでに長く指摘され続けており、専門分野ごとに細分化した組織が総合力を発揮できない現象を指す「サイロ・エフェクト」という表現は数年前から頻繁に用いられてきました。
サイロから抜け出し、全体最適はいかにして実現しうるのでしょうか。それが全体に責任を持ち、全体を動かす力のある人の役割であるとすれば、すべてはトップ次第ということになりますが、生身の人間が一人で対応するにはその能力を超えるケースも少なくないでしょう。
これまで多くの方法が提唱されてきました。たとえば縦割り組織を横通しする「マトリクス経営」という用語も人口に膾炙しています。しかしこれまで、縦割り・蛸壺の打破、サイロ・エフェクトからの脱却を可能とする普遍的な方法論が提示されたことはないですし、まして組織横断の活動が画期的な成果をもたらした事例が次々に現れているという状況にはありません。
本書では、日本人の特性をベースに考えれば、それは「共領域」を形成することによって突破できるのではないかという試論を展開しています。ここでは、共領域形成のために企業は何をすべきかを示すべく、いくつかの事例を紹介することにより、その可能性を探り、3つのポイントを指摘しました。
(1)DXでサプライチェーンをつなげ
企業内部の組織も、サプライチェーンを形成する企業もつながっていない。この課題を解決するには「パワーに基づく全体最適をもたらすDX」や「トラスト(信頼)をベースとしたサプライチェーンの再構築」などのDX手法の活用が求められます。
(2)横通し活動を高次ミッション化せよ
既存の組織を縦割りの組織と呼ぶならば、この組織のなかで新たな目的となる社会実装を実現するための横通し活動が必要になります。この横通し活動の推進をその企業の優先度の高いテーマと位置づけ徹底すること、すなわち高次ミッション化することがポイントとなります。
(3)共領域を拡張せよ
共領域の考え方は、企業内だけではなく、複数企業間や、異なるセクターをまたぐことも可能なコンセプトです。コレクティブ・インパクトの実現のためには「エコシステムの存在」と「課題の共有」が不可欠です。すなわち、複数セクターにまたがる、いわば「拡張された共領域」の展開が肝要なのです。