デンマーク創業のブロック玩具メーカーが急成長を遂げています。プラスチックのブロックだけを扱い、かつては模倣品があふれて経営危機にも直面したレゴ。しかしその後、レゴは驚異の復活を果たします。現在の売上高は玩具業界の中で世界一。ブランド信用力も世界一。『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』では、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由について解説してもらいました(聞き手は蛯谷敏)。
■インタビュー1回目>「知育玩具だけじゃない!「レゴ スーパーマリオ」世界的な大ヒットのワケ」
――レゴの海外事業の中でも、日本は比較的早くレゴが上陸しています。日本でのレゴの事業展開はどのような状況ですか?
長谷川敦氏(以下、長谷川) 日本は、レゴ主要マーケットの一つとして位置づけられています。世帯浸透率で見るとまだまだ伸びしろがあり、現状は「知っているけれど、遊んでいない」という層が多い状況です。我々としては、これを高めていくことが、目下の課題です。
ビジネスの伸ばし方には、3つのアプローチがあると考えています。使ってくれる人を増やすか、買ってくれる個数を増やすか、単価を上げるか。日本では現状、使ってくれる人を増やすことに力を注いでいます。
レゴスーパーマリオが端的な例ですが、最近はレゴ製品もバラエティに富んでいて、さまざまな消費者層が関心を持つようになっています。大人向けのレゴも関心を集めるようになりました。従来のいわゆる知育玩具というイメージからはだいぶ変わってきたという手応えは感じています。
――確かに、レゴは知育玩具というイメージが強かったですよね。
長谷川 知育、エデュケーションに強いというイメージは決して悪いことではないんです。しかしエデュケーションだけのブランドではありませんよ、というのをもっと伝えていきたいですね。
ブランドの知名度は高いのですが、実際に遊んだことがある方って意外と少なかったり、昔遊んだことがあると言う人が多いんです。ですから、最近のレゴを知って、その変化に驚かれるというケースも増えています。ただ、理解してもらう努力はまだまだ必要だと思っています。
――長谷川さんが考える、レゴの価値とはどのようなものですか。
長谷川 我々は「Learning through Play(遊びながら学ぶ)」と呼んでいますが、遊びながらいろいろなスキルを身につけられる点にあります。いわゆる座学の勉強だけでは身に付けられない、創造力や想像力、試行錯誤をしながら課題解決していく力を、楽しみながら鍛えられることが、私にとってはレゴの大きな価値だと思っています。
レゴ製品には必ず「Joy of Building」と「Pride of Creation」という2つの体験ができるように設計されています。「Joy of Building」というのは文字通り、レゴを組み立てて遊ぶときの楽しさです。
もう一つの「Pride of Creation」とは、作品を作り上げた時に自分を誇らしく思う感覚です。レゴでモデルを完成させた時に、「パパ、ママ、こんなのできたよ、すごいでしょう」と親御さんに見せることがあります。実はあの瞬間、子どもたちはとっても豊かな体験をしているんです。少しずつ、自分のやったことに自信を持ち、それを積み重ねていくことで、想像力や創造力が培われていくんですね。
レゴの製品には、必ず対象年齢が書いてあります。下限年齢と上限年齢があって、上限年齢はないものもあるんですけれども、下限年齢は必ず「Joy of Building」「Pride of Creation」を感じられる年齢が記載されています。
子どもは、1年違うだけで指の器用さなどが全然変わってきます。特に「Pride of Creation」は微妙なさじ加減が求められますから。難し過ぎてもダメですし、簡単だとつまらない。これをすべての製品で提供できている開発力とイノベーション力が、レゴにとっての価値ではないかと思います。
――「遊びの満足度」も緻密な設計によって実現されているわけですね。
長谷川 製品デザイナーに聞けば、なぜこの対象年齢なのかを、論理的に説得力を持って説明してくれます。
レゴは長い歴史の中で、子どもたちに作る喜びを提供するためのフレームワークを確立してきました。それに基づき、変えていいところと変えてはいけないところを押さえているのが、レゴの強さだと思っています。
もう一つ、コロナ禍によって明らかになったのは、レゴはコミュニケーションのツールとしても価値を発揮したという点だと思います。
外出が難しくなった中で、自宅にずっといるご家族、お子さんがレゴに触れて、一緒に遊ぶ機会が増えました。家の中にずっといると、たとえ家族であっても、長い間時間を過ごすのは大変なことですよね。
レゴを子どもと一緒に遊んで、楽しさを再発見したという声は多かったですし、レゴを創りながら、親子のコミュニケーションに役立てたという声もありました。フラストレーションを抱えがちな状況で、こういう喜びや楽しさを与えられるブランドになっていることは、我々も誇らしいと思っています。
子どもは元来、ニーズが非常に理解しづらいんです。従って、玩具業界は製品の当たり外れが大きく、一発大きく当たることもありますが、そうでない時もあります。エンタメ業界に近い業界特性があるんです。
その中で、レゴが安定的に毎年ヒットを継続できているのは、子どもたちのインサイトを製品に落とし込んでいくプロセスが確立されているからだと思います。一発ホームランを狙うというよりは、消費者インサイトに基づいた製品開発・マーケティングを実施することで、毎年安定的な打率を目指すような考え方です。(2021年12月22日公開記事に続く)