工作機械業界の健闘
海外からの受注は84.9%増

 わが国の主要産業の中で、工作機械メーカーが健闘している。特に、わが国経済の大黒柱である自動車産業はハイブリッド車(HV)の製造技術に固執し、結果として、脱炭素を背景とする世界的なEVシフトに後れを取った。そうした状況下、工作機械業界が着実に海外の需要を獲得して業績の拡大を実現したことは、わが国経済を下支えしている。

 日本工作機械工業会が月次で公表する工作機械統計の推移を確認すると、外需(海外からの受注)の伸びが顕著だ。11月までの年初来の受注額は、前年同期比で内需が56.8%増加した一方、外需は84.9%増だった。

 地域別に見ると、中国の工作機械需要の伸び率は鈍化している。中国では不動産市況の悪化や新型コロナウイルスの感染再拡大による物流・人流寸断によって景気減速が鮮明だ。12月中旬には、広東省で水不足が深刻化しており、経済活動に一段の下押し圧力がかかっている。当面、中国の設備投資の伸び率は鈍化基調で推移する可能性が高い。

 その一方で、中国以外の国と地域では、わが国の工作機械への需要が旺盛だ。要因として、世界のサプライチェーンの再編が一段と加速していることは大きい。

 例えば、2018年以降に激化した米中対立によって、韓国のサムスン電子は中国でのスマートフォン生産を終了し、ベトナムに生産拠点を移した。その後、コロナ禍の発生、さらにはデルタ株による感染再拡大によって、サムスン電子はスマホ生産のベトナム依存リスクに危機感を強め、インドやインドネシアに生産拠点を急ピッチで再シフトしている。

 中国から移管した生産拠点をさらに別の国に移す企業の増加は、わが国の工作機械需要の増加の背景の一つだ。それに加えて、9月上旬以降にワクチン接種の増加などによって米国や東南アジアの経済が徐々に正常化し、設備投資が増えたこともわが国の工作機械需要を支えている。