台風の「発達強度」の
予測精度を高めるカギとは

斉田季実治気象予報士/気象キャスターの斉田季実治さん

 まずは気象予報の精度は、どのように進化しているのか。その顕著な変化について、斉田さんはこう語る。

「一番大きいのは、ある程度早い段階で、警報級の大雨や暴風が起きる可能性が分かるようになってきたことです。気象庁では2017年から、警報級の現象が5日先までに予想されているときには、その可能性を『早期注意情報(警報級の可能性)』として[高]、[中]の2段階の確度を付して発表しています。これにより、『おかえりモネ』にも登場した、“リードタイム”が取れるようになりました」(斉田さん、以下同)

 リードタイムとは「備える時間」。発災の可能性が分かってから実際に発生するまでの時間を指し、避難などを終えるまでにどれだけの猶予があるかを示す。

「2018年9月30日には台風24号の影響で、JR東日本でも確認できる限り初めて、首都圏全線での計画運休が行われました。予報の精度が上がってきたおかげで、大規模に行動を制限できるような情報を発表できるようになったのです。そういう意味では、気象情報の有効活用は進んでいると思います」

 昔は、天気予報はあまり当たらないイメージもあったが、現在はどうなのだろう。

「やはり、外れたときの方が人は印象に残るものなので(笑)、『当たらない』と思われてしまうかもしれませんが、1970年前後に『レーダー』『アメダス』『気象衛星』という天気予報の三種の神器がそろったことで、精度は格段に上がっています。今はより細かい観測データが得られるようになっているので、明日雨が降るかどうかなら、85%ぐらいは当たります」

 無論、明日の天気も大事だが、影響の大きさではやはり台風情報が気になる。

「台風予想の精度もどんどん高くなっていて、05年頃の3日後と現在の5日後の予想の誤差がだいたい一緒です。特に進路は、だいぶ精度が上がりましたが、中心気圧がどれくらい下がるかという発達強度の予報精度は、まだうまくいかない面も正直あります」

 発達強度の予報精度を高めるカギは「海水温」だ。

「台風は、海から水蒸気の形でエネルギーを得て発達します。また一方では、強い風や気圧の変化によって直下の海をかき混ぜ、海水温を下げることで自らの発達にブレーキをかける。

 この水温の変化をリアルタイムで観測できればいいのですが、気象衛星からだと上空に雲があるので分かりにくい。陸地にあるアメダスのように、17km四方に必ず観測点があるわけではないので(発達強度の予報精度を高めるのは)難しいんです」