新入社員合宿のしごきは
もはや通用しない
またもや人事担当役員への総攻撃である。人事は本当に大変だ。ちなみに、通過儀礼とは、外部者が新しい社会に参入する際に過酷な試練を課すことで、社会心理学では、負担の大きな加入の際の通過儀礼は、当人が認知的不協和を解消しようとする結果、組織への主観的評価を高めると考えられている。つらい経験をすると、ただつらい経験をしただけだということを自分で認めるのがいやなので、自分が加入している集団がすばらしいと思うことで、そのつらかった加入の際の経験が無駄ではなかったと思おうとする心の働きのことだ。高いお布施を払ったことで損をしたと思いたくないので、その宗教にはお布施をするだけの価値があると思い込んで、宗教に入れ込むといった心理的作用と同じである。
この方法は、過去には成功してきた。新人研修などにおいて、社員を精神的にも肉体的にも厳しい状況に追い込むものの、皆で協力しあって見事に課題を乗り越えて、達成感を得て、強い仲間意識を醸成する。実際にはそうした行動をすべて計算に入れた上で行われるのだが、うちの会社に入って良かった!と社員に実感させるようなプログラムなのである。さらには、その後、会社が取り持つ社縁にどっぷりと浸かってもらって、○○(企業名)マン、○○ウーマンに仕立て上げるのである。
ところが、今はSNSの時代である。学生時代の友達がずっとつながっている。社員は社縁だけが頼りなどということはない。厳しく追い込む合宿を実施したら、多くの社員がすぐに辞めてしまう。何が何でもしがみついて耐えなければいけないとは露ほども思っていないからだ。したがって、辞める人は辞める。その際に、「退職者は一定比率は必ず出るものだから」と社長が気にしないでくれれば良いのだが、新卒社員に異常な愛着を持ちがちな日本の会社では、ほんの数人新人が辞めただけで、人事部の大問題にしてしまう。
通過儀礼も若手の離職を防ぐ良い方法にはなり得ない。したがって、地道に今の会社のその場所で働く期待値を高めてもらうしかないのである。