モノでも心でも、片づけの最大のポイントは「捨てる」こと。しかし、捨てるか残すかの判断はとても難しい。それが自分にとって本当に必要か、ふさわしいか、心地よいかは、合理的には判断できない。では、何を基準に考えればいいのだろうか。それは自分のあり方、人生、幸せを考える上でも決定的に重要な意味を持つ。
習慣化のプロとしてこれまで5万人を指導し、1000人以上をコーチングしてきた古川武士氏が、行き着いた最も効果的な習慣は「書く」ことだった。必要なのはノートとペンのみ。自分と向き合い、本当に大切なことに気づけば、生き方は今よりずっとシンプルになる。自分を整理するための「書くメソッド」を体系化した書籍『書く瞑想』から、一部を抜粋して特別公開する。

後悔しない人生のために<br />知っておきたい<br />「最も大切な判断基準」Photo: Adobe Stock

人間関係・人生に影響する判断規準とは?

 モノの片づけと心の片づけには、共通するやり方があります。それは、

「とにかく全部出す」
「必要・不要を分ける」

 ということです。このときに重要なのが「判断基準」です。

 世界中でベストセラーとなった『人生がときめく片づけの魔法』の近藤麻理恵さんは、彼女を有名にした「ときめき」を基準に捨てる・残すを決めるという手法を紹介しています。

「ときめく」という「感情基準」でモノの取捨選択を決めていけると、「感情基準」がどんどんクリアになって、やがて仕事や人間関係、人生において、何を大切にし、何をやめていくかの判断にまで昇華していくと著書で紹介しています。

「断捨離」のやましたひでこさんも、「そのモノが自分にとって必要か、ふさわしいのか、心地よいかの『要・適・』で判断すればいい。それで『不要・不適・不快』なものを手放していく」といいと言います(*1)

 断捨離にしても、片づけの魔法にしても、それがモノの片づけにとどまらず、人生に影響していくのは、「感情基準」による判断力、取捨選択力がモノを超えて仕事・人間関係・生活・感情・人生と全体に波及していくからではないかと私は思っています。

 人生の迷いや混乱を整理していくときに、「感情基準にしたがって判断していく」ことで取捨選択できることが増えていきます。

 であれば、モノの片づけを通さなくても「感情基準」による取捨選択ができるようになれば、心も片づけられるのです。

「真・善・美」の3つの判断規準
決して「感情」をスルーしてはいけない

 ただし、ここまで言うと、現実的には、感情基準だけですべてを自由選択できるならば、苦労はないという反論が出てくるでしょう。

 確かに、日々の仕事ではやるべきこと、付き合うべき人、負うべき役割など、放電だからまったくやらなくていいというわけにはいきません。

 会社や家族の都合もあり、社会生活は自分勝手な判断基準で決められるものではありません。

 もちろん、それは百も承知の上で、それでも人生と生活を望ましい状態にする判断基準として、あえて「感情基準で分ける」と言いました。

 判断基準について納得を深めるためにも、「真・善・美」という大きな判断基準の概念について解説します。これは大思想家のケン・ウィルバーがビッグスリーと述べる判断基準です。

「真」とは、真実や真理を指し、合理的な判断基準を意味します。医学的な診断や、経営改善における数字など、そもそもファクトベースで判断しなければならないことはたくさんあります。

 次に「善」は、「私たちが何を大切にしているか?」による集団の判断基準です。会社や家族や地域、国家では、「私が」ではなく「私たち」が大切にしている価値観によって判断をしていくことがあります。

 我が社にも「習慣化で社会を変える」という価値観がありますが、これを大切にしているメンバーが集まって共通判断基準にして、意思決定をしています。社会的な振る舞いの判断は、「TPO」を求められるものです。

 最後の「美」は、「私は何が良いか?」という個人の判断基準です。たとえば映画を観て、面白かったか、つまらなかったか、あるいは美術品が美しいと感じるかどうかは、個人の感情基準です。そこには絶対的な良し悪しはないし、正しいも正しくないもありません。

 判断基準を幅広く見れば「真」も「善」も大切です。

 しかし、仕事や集団の中では、往々にして自分を後回しにしている人が多いものです。こうしているうちに、「私は何がしたいのか?」「私の豊かさ・幸せは何だろうか?」がわからなくなっていくのです。

「美」による判断をスルーしていった結果、このような状態になっている人を私はコーチングでたくさん見てきました。

 さらに悪い場合は、人生に科学的な統計的幸せ、つまり「真」を持ち込んで判断しようとします。心で感じて決めるべきことを、「真」でねじ伏せようとすると混迷は深まるばかりです。

 もっと「美」という自分の感情基準で選んでいいことはたくさんあります。

 どんな働き方をしたいか、誰と結婚したいか、どんな人たちと共に過ごしたいか、何に時間を使いたいかは、もっと自分が感情基準で明確に判断していいのです。

 その結果、今すぐすべてを自由に変更できなくても、「必要・不要」がはっきりします。はっきりと判断できたものだけが片づけられる対象になります。

「感情基準」を大切にしていくと、人生で大切なこと、自分にとって大切なものが見えてきます。

 私たちは、頭、心、身体の3つがすべて違和感なく「OK」を出したとき、一番納得がいくものです。

 頭での検算は最後にして、心、身体で何を求めているかを自分に問いかけることを優先しましょう。

(本原稿は『書く瞑想──1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』からの抜粋です)