なぜこのようなことが成立するかというと、「試合に出ることが選手にとって最も幸せなこと」という共通認識が双方にあるから。主役はあくまで選手全員。控えにまわって主力選手のサポートをしたり、応援したりするだけで試合に出ないというのは、幸福ではない環境なのです。前述の若手社員にも通じますが、大手企業に入って舞台に立たないまま、それなりに過ごしていける日本の組織にはあまり見られない、クビという制度です。

 彼らがそういった制度を成立させられる背景には、トーナメント戦ではなくリーグ戦が主戦場となっていることがあります。1試合で終わるわけではないので、多くの選手が出場でき、チームメンバーの編成を変えながらシーズンを過ごすことができます。

日本の学生スポーツが海外サッカークラブに学ぶべき「クビ」という幸福な制度

 一方日本では、まだまだトーナメント戦が人気。勝ったら天国、負けたら地獄というシステム。勝っても負けてもドラマチックにテレビが演出し、「涙のロッカールーム」のような設定が喜ばれます。

 でも、これはあまりにも観る側寄りの構成ではないでしょうか。ギリギリの戦いが続くトーナメント戦では、試合に出られない選手も多い。「試合に出ることが選手にとって幸福」であれば、トーナメント戦はそれに向いていません。

スポーツに本来必要な
観る側でなくプレーする側の視点

 また、ヨーロッパでは自由に競争させることから、若い世代にリスクを背負わせないように選手を守っています。具体的にはプロにならない選手(アマチュア)は、むやみにテレビに出そうとはしません。テレビの中継がある中での大事な試合で、もし決定的なミスをしたら、選手も親御さんもそれを引きずるかたちになる。どれほどの傷になるかが想像できるため、彼らを守らなければいけないという発想なんです。

 このあたりも、観る側ではなくプレーする側の視点で考えられているのではないでしょうか。トーナメント戦の良さもありますが、日本の学生スポーツがリーグ戦に移行することで、選手の幸福度が上がることを私は願っています。

*「FC市川GUNNERS 代表・幸野健一氏に聞く(3)」に続きます。