「飲む中絶薬」を巡る議論

 2021年末に話題になったのが、「飲む中絶薬(経口中絶薬)」について日本でも認可に向けての動きが始まっているというニュースだ。現在、厚生労働省に薬事承認が申請されている。

 日本での人工妊娠中絶は産婦人科での手術に限られているが、世界の80カ国以上ではすでに飲む中絶薬が認められている。日本では中絶方法として「吸引法」ではなく、時代遅れといわれる「搔爬(そうは)手術」が行われている割合が高いことも併せ、この分野の後進国である。

 近年、避妊や中絶にまつわる議論の中で、女性が主体的に避妊や中絶を行うための手段が日本には少ないことが幾度も指摘されてきた。たとえば避妊法について日本では男性が着用するコンドームがメインだが、海外では女性が着用する避妊リングや避妊パッチが併用されており、日本では承認されていないものも多い。

 また、性行為後になるべく早く服用することが望ましい緊急避妊薬(アフターピル)の薬局販売についても、日本ではまだ議論中の段階である。

 そんな中で「飲む中絶薬」の承認申請とともに報じられたのが、海外での平均価格が740円のこの中絶薬について、日本産婦人科医会会長が「10万円程度かかる手術と同等の料金設定が望ましいとする考え」を示したこと。

 ネット上では「相変わらず女性を罰したいだけにしか思えない」「なんで医者がこんなに後ろ向きなんだろう…」といった声が上がっている。

 妊娠後、誰にも相談できなかった女性が一人で出産したり、新生児を遺棄して逮捕されるケースはたびたび報道されている。その中には中絶の同意を「父親」の男性から得られずに手術を病院から拒否され、やむなく出産に至ったケースもあった。

 女性が自分の体を自分で守るための方法が根付いているとはいえない状況があるのではないか。今後も活発な議論が望まれる。