リスキリングによる人材流出は
デメリットになり得るのか

 わたしはキーエンスについては正直、深いお付き合いはないのでわかりませんが、ソニーにしてもリクルートにしても、人材流出を気にする風土はありません。むしろ巣立っていった人材が日本のあらゆる業種・企業で活躍していることを誇りにしていると思います。

 これは終身雇用が過去のものとなり、人材流動が当たり前となった日本経済の新常識かもしれません。一番人材力の高い企業が、一番の人材供給源になるわけです。

 また10年前であれば選抜した幹部候補中心に育成を進めてきた関係で「その中のひとりが抜けると痛い」という現実はありました。しかし今のように、ほぼほぼ全社員を学び直させて戦力を上げていこうというやり方であれば、転職で人材が流動化するのは確率の問題だと割り切ることができそうです。

 最後に、いつまで学び直させるのかという現実的な問題があります。他分野のエンジニアを学び直させてAIエンジニアに育て直すというのは、直感でいえば20代から30代前半の社員に資源を集中したほうが効果は出そうです。

 一方で今、社会問題になっているのは人生100年問題です。少なくとも70歳までは働くことが当然で、その文脈で40代、50代でも学び直しが必要になる。その社会全体の要請と、今話題になっている超優良企業の社内学び直し制度にはまだギャップがあることも事実です。

 しかしこの問題はいずれ解決されるべき問題でもあると思います。ヒントは冒頭のヤフーのニュースにあるように間接部門の人間が「AIを実務で活用」するスキルを身につける試みです。

 たとえ相当の力量を持ったハイエンドエンジニアだとしても、50代になってデータサイエンティストを目指すのは無駄とはいいませんが、歩みの遅い努力になりそうです。一方でAIを活用するスキルを学び直せば、製造現場、設計現場、開発現場で全く新しい発想や発見が起きる可能性はあります。

 要するに、適材に向けた適切な学び直しプログラムが求められているのです。

 今はまだ先端企業で始まったばかりですが、早晩、日本企業も米国企業のように過半数の企業で学び直しが当然のように進む時代に突入するはずです。そして社員も、学び直しを人生100年の中で期待しながら取り組めるようになる。そんな時代に突入しつつあるわけです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)