今年の漢字が「密」から「金」へ
金メダルラッシュや金字塔に沸いた2021年

 さて、2021年の大まかな世相を探ろうと思ったら大いに参考になるのが、“今年の漢字”である。2021年は「金」となった。

 新型コロナウイルスの影響で、東京オリンピック・パラリンピック開催年がずれ込み、開催に至るまで散々もめたが、いざ始まれば応援ムードとなり、大会は盛り上がった。

 東京オリンピックでの日本人選手の金メダル獲得数は史上最多の27個、一方、東京パラリンピックは金メダル13個、金銀銅を合わせた総メダル獲得数は歴代2位と、オリパラともに選手は大活躍であり、これは国民、しかも自国開催の大会となれば盛り上がらざるを得ない。

 開催直前に行われたYahoo!のアンケートでは「東京五輪、日本は金メダルを何個獲得できると思うか?」という質問に対し、「個数は重視しない」が67.7%と圧倒的多数を占めていた。いざ金メダルがたくさん獲得されれば“今年の漢字”に「金」が選ばれるくらい、金メダルは歓迎された。

 これは「建前では『個数は関係ない』と言っておきながら実際は金メダルをありがたがって、浅ましい」と見ることもできようが、「出場選手の努力を肯定する意味で『個数は関係ない』と答えたが、実際に金メダルを獲得してくれるならそれに勝るめでたさはない」と考えた方が個人的にはしっくりくる。近年の日本人の国民性の美しさがよく表れた一件であるように感じられた。

 2021年は、東京五輪のほかにも各種競技に取り組む人たちの活躍がめざましかった。将棋棋士の藤井聡太氏の史上最年少4冠や大谷翔平選手の大リーグMVP、ゴルフの松山英樹選手の日本人初マスターズ優勝などが印象深く、今年の漢字「金」は“金”字塔の意味合いもあるそうである。

 ではその前年、2020年の“今年の漢字”は何かというと「密」である。「密」という漢字自体の意味にはポジティブもネガティブもない。2020年で見ると「リモートでも人との関係性を“密”に築くことができた」といったポジティブな声もあったが、「3密回避」があれだけ言われた年であったから、どちらかというとネガティブなにおいの方が強い。

 その翌年の漢字が「金」となり、こちらは圧倒的にポジティブな文脈で用いられているから、日本全体が前向きな方向に行こうとしている、あるいは行きたがっているのが見て取れる。

 中国・武漢市で新型コロナウイルスが最初に報告されてから、感染の不安、自粛のストレス、それらにまつわる経済的損失にさらされ続けた抑圧状態からの解放を、2021年の日本は希求したのであった。

 この気持ちの変化には、ワクチン接種が大いに関係しているであろう。