私が秘書課に異動して間もなく、私自身の人間関係にも変化が表れた。それは図らずも、立場を超えて継続的な関係を築くことができるのはどういう人なのか、仮に退職したあともつきあっていける人は誰なのか、を確認する機会を得ることとなった。
秘書は「社長とのパイプ役」
なんかじゃない
秘書になる前に所属していた貿易課時代からの人間関係において変化したこと。それは、貿易課の上司や先輩たちから、頻繁に飲みに誘われるようになったことだ。
「お疲れサマ。まずはビールで乾杯しよう!」
と元上司。その日は貿易課時代の上司、先輩たちと4、5人で集まった。
(わ~い。会社勤めってこれがあるから楽しいよなあ。部署が替わっても、かわいがってもらえるなんて!)
私はやさしい先輩たちに囲まれて、幸せな気分でビールを飲み干した。
「異動してどう? 元気でがんばってる?」
かつて同じ職場だった先輩たちからそんな声をかけられ、私はうれしかった。部署が替わっても気遣ってくれる……スバラシイ! そう思って喜ぶ私に向かって、先輩たちは口々に話しはじめた。
「秘書課にパイプができて、俺たちホント好都合だよな。いろいろ教えてくれよ」
(ん? パイプ? どういうこと?)
「この前の戦略会議で、S社長がうちの部署のことを叱っただろう。あのことを誰が社長に言いつけたか知ってる?」
「……」
(ああ。資材部のK部長が責任逃れしていた件か。そんなこと言えるわけないよ)
そう思いながら私は口をつぐんだ。
「来週、S社長も出席する会議で業績報告をする予定なんだけど、あの会社との取引のことは言わないほうがいいのかな?」
「……」
(ああ。それは我がボスの懸念事項だ。絶対隠したりしないでほしい。でも私がそんなことをこの人たちには言えないよなあ)
私は苦笑しながら、また口を閉ざす。
「社長と副社長って意外と仲が悪いっていうウワサを聞くけど、それって本当?」
「そんなことはないと思いますけど……」 と私。
「社長は、次期社長は誰にしようと考えていると思う? N専務にしようと思っているから、今回の組織改正で営業統括のトップにもっていったんだろう?」
「……」