デンマーク創業のブロック玩具メーカーが急成長を遂げています。『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』では、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由について解説してもらいます。インターネット上でファンが「自分の欲しいレゴ」を制作し、投票によって製品化を決める「LEGO IDEAS(レゴアイデア)」というサービスをご存じでしょうか。レゴが2014年に開始し、ファンのもつ知恵を開発に生かす取り組みとして、同社の躍進を支えています。実はこのサービスの原型は、日本人起業家のアイデアに基づいています。1997年にエレファントデザインを創業した西山浩平氏だ。同社は2000年代前半からユーザー参加型の商品企画サイト「空想生活」と呼ぶ、現在のクラウドファンディングに近いコミュニティ・サービスを開始。2008年からは「LEGO CUUSOO(レゴ空想)」の名称で、レゴと共同で実験サービスを始めました。その詳しい経緯については本書をご覧いただきたいが、本連載では、実質的なレゴアイデア生みの親である西山氏に、レゴの強さを聞きました。(聞き手は蛯谷敏)

なぜ、レゴはファン主導のユーザーイノベーションに成功したのかレゴアイデアの原型を生み出した日本人起業家、西山浩平氏(Photo:Keiko Chiba/Nacasa & Partners Inc.)

――レゴの製品とサービスが、現在も支持されている理由はどこにあるのでしょう。

西山浩平氏(以下、西山) 2つあると思います。1つは、世代を超えてレゴの遊びが定着している点です。レゴブロックは、誕生から60年以上経っていますから、おそらく3世代をまたいで遊ばれているわけです。

 例えば米国などでは、子どもが成長しレゴが不要になっても捨てられず、チャリティーや寄付などを通じて、お下がりが受け継がれています。単純にお店から購入したレゴだけでなく、親戚や兄弟から譲られたものも含めて、多様な入手の経路を経て、誰もが一度は触れる機会ができあがっています。

 構造的にレゴブロックと接触する機会が多く、さらに遊び方にも決まったルールがないので、すぐになじめる点が人気の大きな理由でしょう。いわゆるネットワークの外部性が働いているので、高くても払おうというインセンティブが働くわけです。1回の支払い単価は高いけれど、長い目で見ると価値を感じられる。だから購入しようと思わせるのでしょうね。

 もう1つは、レゴ自体のテーマ性です。レゴシティでは、街の一場面を切り取って、自分なりに物語を作ることができます。自分の想像の中で、いろいろな乗り物や建物を作ることができます。そして、まったく同じ部品で、全然違う怪獣を作ったりすることもできます。頭の中に描いたものが作れるという点で、レゴブロックは子どもにとって、とっつきやすいし、飽きにくい。

 加えて、レゴがプライベートカンパニーで、必要以上に売り上げを伸ばすプレッシャーを株主から受けることもありません。経営の母体がプライベートカンパニーで、レゴユーザーとレゴブロックの普及を主眼に置いており、投資家の論理に左右されにくいメリットもあるでしょう。

 この2つのポイントを維持し続けることができれば、この先もレゴを購入しようというユーザーの動機は変わらないと思います。

なぜ、レゴはファン主導のユーザーイノベーションに成功したのか世代を超えて愛されるレゴ(Photo:永川智子)

レゴアイデアが成功した理由

――レゴアイデアが成功した理由はどこにあったのでしょうか。

西山 レゴのユーザーイノベーションが成功した理由は、インターネットの存在に尽きます。

 先程触れたレゴの強みは今もなお根強いのですが、レゴを取り巻く環境は大きく変わっています。ネットの台頭によって、製品に触れる機会が変わってきたわけです。

 それまでは、レゴブロックだけがモデルを作って販売することを独占できていたのが、状況が変わってきました。

 そんな中で、レゴファンがレゴブロックで組み立てた作品を写真に撮り、ネット上にアップロードして、それをほかのユーザーがまねするという循環が急拡大していきました。ネットが台頭する局面に、レゴアイデアの仕組みがぴたりとハマったのだと思います。

 我々の中では、「パブサブ」という言葉があって、作品を次々と公開(パブリッシュ)する人と、それを見る(サブスクライブ)関係が無数に存在する構造が、インターネットの本質の一つだと考えています。

「UGC(ユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ)」と呼ばれる、ユーザーが生成したコンテンツが広がるためには、コンテンツを生む人とそれを享受する関係が構築されていることが不可欠です。

「コンテンツを作りました」だけではダメで、誰かがそれをフォローしたり、受け取る関係にないと広がらないんです。SNSだってパブサブの構造ですし、ネットで流通する多くのコンテンツ配信サービスも同様の関係の上に成立しています。

 当時、レゴがどこまでこのパブサブ構造を意図していたのかは分かりませんが、少なくとも「LEGO CUUSOO」は、この関係を実現するプラットフォームになりました。

――それまで玩具売り場で、写真でしか見ることのできなかった様々なレゴのモデルが、ネットの普及によって、簡単に見れるようになったわけですね。

西山 そうです。しかも、大量に。写真で画像検索すれば、無数におもしろいモデルが出てきて、しかもそれを、自分のブロックでも組み立てられる。「これ、いいな」「これ作ってみよう」という刺激に事欠かなくなったんです。

「LEGO CUUSOO」で実現したのは、そうした無数のアイデアの中から、レゴが人気のあるものを選別して、自社でプロデュースできるようにしたことです。レゴブロックがユーザーに人気があるのは既に分かっているし、価格もコントロールできる。製品の外れも少なくできますから、利幅も大きくなるわけです。

 その結果、「レゴ マインクラフト」といったヒットシリーズが生まれました。ファンにとっても遊び方のバリエーションがどんどん増えていくので、メリットがあるはずなんですね。(2022年1月14日公開記事に続く)