1836年の「江戸名所図会」に描かれた豊島屋本店1836年の「江戸名所図会」に描かれた豊島屋本店 Photo:Toshimayahonten

江戸の酒と田楽と、
日本最古の立ち飲みが復活

 豊島屋十右衛門が1596年に神田で創業した豊島屋本店は、灘の酒を安く、肴に大きな豆腐田楽を出す居酒屋で大人気。「江戸名所図会」にも描かれた名所となる。酒の空樽を味噌醤油蔵へリサイクルし、利益を出すビジネスモデルが成功した。

 明治期に入り、清酒製造を開始。明治天皇の銀婚式を祝う「金婚」銘柄を立ち上げ、明治神宮や神田明神へお神酒を納める。だが、1923年の関東大震災で店は倒壊。300年続いた居酒屋の灯は消えた。その後、酒造と卸に注力したが、東京大空襲に遭うなど困難が続く。

 何度かの再建の後、2020年、創業の地近くに97年ぶりに豊島屋酒店として立ち飲みを復活。

「豊島屋の行動指針は不易流行です」と16代社長の吉村俊之さん。

 せっかちな江戸っ子を待たせないよう酒の自動販売機も設置し、1杯300円から楽しめる。

 俊之さんは、京都大学大学院修了後、日立製作所で半導体の研究に従事。コンサルティング会社を経て家業の豊島屋本店に入社。06年から社長を務め、創業者名を冠した「十右衛門」や、江戸酵母と東京産米で醸した「江戸酒王子」を開発。

 江戸東京に特化した酒は酸味が強く甘いシェリー酒のようで、昔からの飲んべえには不評だが、女性や若い層、海外で高評価を得る。ソムリエやシェフが審査するフランスの酒コンテストKura Masterではプラチナ賞に輝いた。個性を生かして発泡酒も展開。

「日本酒を飲まない人にも楽しんでほしい」と俊之さんは不易流行を心に提案を続ける。

金婚 純米吟醸 江戸酒王子金婚 純米吟醸 江戸酒王子
●豊島屋本店・東京都千代田区神田猿楽町1-5-1​●代表銘柄:金婚、十右衛門、豊島屋の白酒​●杜氏:石井治幸​●主要な米の品種:八反錦、山田錦、キヌヒカリ