台湾TSMCが熊本県に建設する新工場運営のパートナーに、「日の丸半導体」の代表格であるルネサスエレクトロニクスの名はなかった。当初、ソニーグループに加えてルネサスにも合弁工場への参画が打診されたが、ルネサス側がそれを見送ったという。一体、交渉の水面下では何が起きていたのか。そして、ルネサスが独自路線を貫く理由とは。特集『戦略物資 半導体&EV電池』の#2では、その最前線に迫った。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
TSMC熊本工場プロジェクトに
参加しなかったルネサスの深謀
経済産業省が台湾TSMCの工場誘致の交渉をスタートさせたのは、2019年5月のビッグニュースがきっかけだった。
米中対立がエスカレートし、当時のトランプ大統領は中国ファーウェイに対する輸出規制を断行。禁輸の対象として、半導体が対象になったのだ。
このまま米中対立が深刻化すると、中国は台湾に軍事衝突を仕掛けかねない。となると、米国と同盟関係を結ぶ日本は、(中国のプレッシャーを受けた)台湾から半導体を調達できなくなるかもしれないーー。こうした地政学リスクの高まりに危機感を抱いた経産省は、TSMCの誘致活動を本格化させたのである。
経産省がTSMCの誘致交渉で切り札としたのが二つの要件だ。
一つは巨額の補助金。日本に先行して20年5月にTSMCの誘致を決めた米国も数千億円の援助が前提だった。21年に入って自民党議員の支援が広がり、予算確保のめどが立った。
二つ目が、半導体の国内需要だ。米国には、アップル、クアルコム、AMD、ブロードコム、エヌビディアといったTSMCの大口顧客が多数あり、この旺盛な需要が、米国アリゾナ州へのTSMCの工場建設を最終判断する決め手となった。
だが、日本でも米国ほどではないが大口の顧客は存在する。それがソニーグループとルネサスエレクトロニクスだ。こうした戦術から経産省は、ソニーとルネサスに協力を要請した。
だが、結果的にソニーはTSMCと共同で半導体工場を建設することに合意したが、ルネサスは参画を見送った。
なぜ、判断が分かれたのか。実はその意思決定の裏側には、経産省と大口取引先のトヨタ自動車グループと距離を取るルネサスの深謀がある。以降では、その裏事情を明かしていこう。