スウェーデンの新興電池メーカー、ノースボルトが存在感を高めている。創業5年にして独フォルクスワーゲンや独BMWなど上客を味方に付けて急成長を遂げているのだ。実は、ノースボルトの開発総責任者を務めているのは日本人エンジニアである。日中韓が中心の電池産業を欧州でゼロから立ち上げられたのはなぜなのか。特集『戦略物資 半導体&EV電池』の#8では、ノースボルトの阿武保郎氏を直撃した。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
電池一筋34年のエンジニアが
新興メーカーに転じた理由
創業からわずか5年にして、独フォルクスワーゲン(VW)や独BMWら大手自動車メーカーとの供給契約にこぎ着けた欧州発電池メーカーがある。スウェーデンのノースボルトだ。米テスラで調達担当の副社長をしていたピーター・カールソンCEO(最高経営責任者)が立ち上げた企業だ。
実はこの成長著しいノースボルトで、日本人エンジニアが開発総責任者を務めている。阿武保郎氏は、パナソニックやソニー(現ソニーグループ)、戸田工業などで34年余りを生粋の電池技術者として過ごした経歴を持つ。
日中韓が中心の電池産業を欧州で立ち上げられたのはなぜなのか。日本メーカーが電気自動車(EV)向け電池で出遅れている“意外な理由”とは何なのか。電池産業の裏表を知り尽くしたキーマンを直撃した。
──阿武さんは、パナソニックやソニー、戸田工業などでトータル34年余りを電池技術者として過ごしたキャリアがあります。スウェーデンのノースボルトに転身されたのは、どのような経緯があるのですか。
ノースボルトのピーター・カールソンCEOとは20年来の友人です。彼はスウェーデンの通信機器エリクソンや米テスラで調達担当をしていましたから、私がパナソニックやソニーにいた頃からのお客さんだったんですね。お客さんだけど仲が良かった。
BASF戸田バッテリーマテリアルズ社長をしていたときに、カールソンが「日本に行くから飯でも食おう」と言うので軽い気持ちで快諾したら、電池メーカーを作るので来てくれというリクルーティングの話でした。
僕は長年この業界にいますから、「技術や設備を外から買ってきても、電池なんて簡単にできるもんじゃない。ドイツだって米国だって失敗してきた。やめた方がいい」と進言しました。
でもカールソンは「厳しい環境規制をクリアして、スウェーデンで“グリーンバッテリー”を作るんだ」と頑として譲らなかった。東京のホテルで4時間膝詰めで話しまして、ああ本気なんだなと思いました。
電池産業は日本、韓国、中国が強いですが、本当の意味で環境に優しいグリーンバッテリーは世界のどこにもないんですね。材料に有害物質が含まれていたり、劣悪な労働環境があったりしますから。長年、カールソンは調達担当をしていて、電池開発・製造の難しさを理解した上で覚悟を決めているのはよく分かりました。
よく考えて1年後にノースボルトに移ることにしたんです。ただし、一つだけ条件を出しました。
──どんな条件ですか。