従来、半導体大手のルネサスエレクトロニクスは、トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーの“従順なしもべ”だった。だが、その主従関係に変化の兆しが見え始めている。スマートフォンやデータセンター向けなどの旺盛な半導体需要を背景に、自動車メーカーが半導体の調達に苦しむ“買い負け”が生じているのだ。ちょうど同じタイミングで、ルネサスは非自動車事業を拡充する巨額買収を敢行している。特集『EV・電池・半導体 脱炭素の最強カード』(全13回)の#1では、半導体メーカーと自動車メーカーの間で繰り広げられる神経戦を追う。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
自動車向け半導体不足で響く
サプライヤーピラミッド崩壊の足音
「端的に言うと、われわれは買い負けたということです」。昨秋から顕著になった自動車業界における半導体不足の真相を究明しようと、調査に動いた自動車大手のある幹部は、関係各所からのそうした報告をがくぜんとして聞いた。
これまで、圧倒的だと信じて疑わなかった自動車メーカーの「バイイングパワー」が、半導体業界では通用しなくなりつつあることをまざまざと感じさせられたからだ。
今回の半導体不足の主因は、新型コロナウイルスの感染拡大で急減した自動車需要が急回復するという「イレギュラー」が生じたからだと説く向きは多い。
しかし、事はそう単純ではない。半導体不足によって年明けから自動車各社が減産にまで追い込まれた背景には、半導体市場が引く手あまたの“売り手市場”に転じたという業界の激変がある。
自動車メーカーを頂点とする自動車のサプライヤーピラミッドの崩壊――。自動車業界の関係者は、自動車メーカーと半導体メーカーの“主従逆転”について異口同音に語るようになった。日本で言えば、象徴的に語られるのがトヨタ自動車と半導体大手のルネサスエレクトロニクスの関係である。
トヨタや、トヨタグループのティア1(一次下請け)の筆頭格であるデンソーを大株主とするルネサスはむろん、自動車メーカーとの主従逆転について全否定する。だが、ここ数年のルネサスやトヨタグループの動きを追うと、両社がそれぞれの収益化計画を巡って張り詰めた神経戦を繰り広げている様子が浮き彫りになる。
いったい、何が起こっているのか。