台湾TSMCがソニーグループと共同で建設する半導体工場の全貌が明らかになってきた。日本政府が4000億円もの補助金を投入してサポートする巨大プロジェクト。日本の半導体産業の復活に期待が集まるが、2024年の本格稼働を前に“不都合な真実”もあらわとなりつつある。特集『戦略物資 半導体&EV電池』の#1では、その最前線に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令ニ)
経産省・TSMC・ソニー
トライアングルで交渉加速
2021年6月下旬。東京・霞が関の経済産業省の一室で、梶山弘志経済産業相(当時)は、台湾TSMCの劉徳音(マーク・リュウ)董事長、魏哲家(シーシー・ウェイ)最高経営責任者(CEO)の両トップとビデオ会議で向かい合っていた。
「国として強くサポートしたい」
経産省が19年5月ごろから進めてきたTSMC工場の誘致活動には紆余曲折があったが、日本政府の意思として経産相がTSMCの両トップに支援を確約したことで、交渉は最終局面に入った。
2年にわたる誘致交渉。それが実現に向けて大きく前進したのは、経産省、TSMC、ソニーグループの3者の実務担当者による“トライアングル”の交渉の枠組みができたことが大きかった。
TSMC側の実務担当者は、李俊賢(ジョナサン・リ)副総経理。TSMCの戦略担当役員として、中国・南京工場や米国・アリゾナ工場の海外進出プロジェクトを相次ぎまとめてきた人物だという。
ソニーの交渉担当は、半導体子会社であるソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)の清水照士社長だ。実は、李氏と清水氏は旧知の間柄である。TSMCにとってソニーは日本企業で最大の顧客であり、長くビジネスを通じて親密な関係にあったことも功を奏した。
このトライアングルの枠組みが固まったのは、21年に入ってからのことだ。長く一進一退を続けてきた経産省とTSMCの交渉は、ソニーが加わったことで一気に加速。ついにTSMCは10月の決算電話会見で日本進出を表明し、経産省は悲願のTSMC誘致を実現させたのだった。
TSMCがソニー工場(熊本県)の隣接地に建設する新工場の投資額は約8000億円。このうち半分の約4000億円を政府が補助金で支援する。一つの企業に対する支援としては異例の規模だ。
だが、巨大工場の全貌が明らかになるにつれて、水面下の誘致交渉で詰め切れなかった矛盾が噴出してきた。
以降では、経済安全保障と日の丸半導体復活の狭間で揺れるTSMC熊本工場が抱える“不都合な真実”を明らかにする。