その功労者によくもまあ犯罪者のような汚名を着せ、非難の的にしたものだ。私はスポーツライターとして、スポーツの歴史と発展に絶大な貢献をし続けているアスリートに対して、著しくリスペクトを欠いたオーストラリア政府の所業に問題を提起する。「コロナ対策のためには仕方がない」という、今は切り札のように使われる言葉で肯定されるのはおかしいと、はっきり指摘したい。

もはや全豪「オープン」ではない

「ワクチンを2回接種しなければ入国できない」

 オーストラリア政府は、かねてこのような決定をしているという。それがジョコビッチを追放した理由だ。

「ルールを守るのは当然だ」

 オーストラリア政府の姿勢に理解を示す人々はこう言う。だが、「ワクチン2回接種が入国の条件」とするのは、あくまでオーストラリアのローカル・ルールだ。世界共通のルールでも、スポーツ界が合意した総意でもない。

 オーストラリア政府がそのローカル・ルールを重視する姿勢はもちろん尊重する。だが、それほどローカル・ルールを厳守するなら、なぜ「世界」に開かれた大会であるべき全豪オープンを実施するのだろう?
 
 ワクチンを接種しない選手を排除して、「オープン」と名の付く大会を開催するのはおかしい。日本では「オープン」という呼称が単に「大会」と同義で理解されているが、私はアメリカである競技に参加した際、「オープンというのは、『誰でもいらっしゃい』という意味だ」と教えられた。本選に出場できるのは限られた人数としても、その前に予選があり、広く門が開かれている。ところが、今回の大会は、前回優勝者さえも門前払いした。これはもはや全豪「オープン」ではない。

 少なくとも今年に関する限り、全豪ローカル大会としては認めても、グランドスラム(世界の4大トーナメント)の一つという位置付けははく奪すべきだと考える。