「フェルミ推定」は、調べても正確な答えがわからないような一見難解な問題だ。
でも、地頭のいい人はわずかな手がかりだけでパッと概算することができる!
本連載では、ビジネスでも日常のひとコマでも使える超・高速計算テクニックと、どんな難問でも自分なりの答えを導くコツを紹介したイギリスで話題の1冊、『世界の猫はざっくり何匹? 頭のいい計算力が身につく「フェルミ推定」超入門』より一部を特別に公開する。
ウィンブルドン選手権では
テニスボールが何個使われる?
就職希望者が即座に頭を働かせられるかどうかを見極めるために、面接でひねった問題をぶつけることで有名な会社がいくつかある。
このウィンブルドンのテニスボールの問題は、国際的なコンサルタント企業のアクセンチュアが出したものといわれているが、実際に就職面接で使われたのか、あるいはただの都市伝説なのかは定かでない。
面接官は本当に、ある程度のテニスの知識が求められるような質問をしようとしたのだろうか? もしかしたらそうかもしれない。いずれにしても、これは面白いフェルミ問題だ。
ここでは問題の対象を、2週間にわたって開かれるウィンブルドン選手権の男女シングルス、男女ダブルス、混合ダブルスの試合に絞ることにしよう。
まずは、全部で何試合おこなわれるのか?
ウィンブルドン選手権は勝ち抜き方式のトーナメントで、本戦が始まったら不戦勝はありえない。そのため、勝ち抜き方式のトーナメントでは必ずそうだが、出場者の人数は2の累乗でなければならない。
なぜなら、決勝に2人、準決勝に4人、準々決勝に8人、さらに16人、32人、64人、128人というように、1回戦までさかのぼっていくことになるからだ。
勝ち抜き方式のトーナメントで何試合おこなわれるかをはじき出すための便法がある。各試合で1人ずつ脱落していって、トーナメント終了時には1人だけが勝ち残っているので、試合数はトーナメントの参加人数よりも必ず1小さいはずだ。
ウィンブルドンのシングルスのトーナメントでは1回戦に128人出場するので、試合数は128-1=127となる。
男女ダブルスでは1回戦に64ペアが出場するので、合計で63試合。混合ダブルスは48ペアで47試合だ。結果、ウィンブルドン選手権本戦の試合数は、
127+127+63+63+47…400としておこう。
男子の試合は3セットから5セット続き(平均を4セットとしよう)、女子を含む試合は2セットか3セット続く(平均2.5セットとしよう)。これらを組み合わせて、ウィンブルドンの試合は平均で3セットとしておこう。
1セットのゲーム数は、最少で6(6-0の場合)、最多で13(タイブレークまでもつれ込んで7-6になった場合)。平均は9.5ゲームだが、丸めて10ゲームとしておこう。そのほうが簡単だし、最終セットでは6-6からタイブレークに入らないので、平均ゲーム数が多くなるからだ。
したがって、ウィンブルドン選手権での平均的な試合では、次のようになる。
1セットあたり10ゲーム×1試合あたり3セット=1試合あたり30ゲーム
アクセンチュアの面接会場でもテニスファンしか知らなかったはずの専門知識の1つが、審判は9ゲームごとに新しいボールを6個1組持ってこさせることだ(「ニューボールズ、プリーズ!」)。つまり、30ゲーム続く試合では6個1組のボールが3組ないし4組必要となる。そこで1試合あたり20個としておこう。試合数は400なので、ボールの数は次のとおりとなる。
1試合あたり20個×400試合=8000個
かなり大きな数だが、ウィンブルドンが毎年使用していると主張する5万個よりははるかに少ない。どういうことだろう?