健康保険と国民健康保険では、保険料計算の基となる所得の把握時期が異なっている。健康保険は、その年の4月~6月の給与の平均を基に、その年の9月~翌年8月までの保険料が決められる。

 だが、国民健康保険の保険料は、前年(1月1日~12月31日まで)の所得によって決められている。たとえば、定年退職すると、主な収入は公的年金となり、現役世代に比べて所得は低くなる。だが、保険料は退職前の高い年収を基に計算されるため、実際の支払い能力以上の高い保険料になる人が多いのだ。

 これに対して、任意継続被保険者制度は、事業主負担がなくなるものの、これまでは最大でも「加入者全体の標準報酬月額の平均に保険料率を掛けた金額」だった。そのため、国民健康保険に比べると保険料が低く抑えられている。

 また、会社員時代と同じように扶養家族が保険料の負担なしで健康保険に加入できるというメリットもある。

 給付面では、傷病手当金と出産手当金を除いて、退職前と同じ給付が受けられる。協会けんぽの給付内容は法律の範囲内だが、大手企業などの健保組合の中には、法定給付に加えて独自の付加給付を上乗せしているところもある。付加給付のある健保組合なら、退職後に国民健康保険に加入するより、任継続被保険者制度を利用したほうが高額療養費や出産育児一時金などが有利になる。

 こうした仕組みから、退職後は任意継続被保険者が選ばれるケースが多いのだが、いったん加入すると2年間は個人の希望で脱退することはできない。そのため、保険料計算の基となる所得が下がったら、あえて保険料を滞納して資格を喪失して、国民健康保険に移行するといったケースも見られるようになっていた。制度と実態が乖離しつつあったのだ。

退職前の収入が高い人ほど保険料が割安になる
任意継続被保険者制度の矛盾

 もう一つの矛盾が、任意継続被保険者制度は、退職前の収入が高い人ほど保険料が有利になるといった点だ。

 退職後は事業主負担がなくなり、全額が加入者負担となるため、原則的に退職前の2倍の保険料を負担することになる。だが、任意継続被保険者制度の保険料は、「退職時の標準報酬月額、または加入者全体の標準報酬月額の平均のうち、どちらか低いほうに決められた保険料率を掛けた金額」だったので、最大でも加入者平均を基にした金額だ。加入者平均よりも高い標準報酬月額だった人は、事業主負担分を支払っても、現役時代よりも保険料が低くなるケースがあり、必ずしも保険料が2倍になるわけではないのだ。

 たとえば、東京都の協会けんぽに加入している人で、退職時の標準報酬月額が60万円だった場合で考えてみよう。保険料(介護保険含む)の全額は、6万8676円。退職前は労使折半なので、月額3万4338円を負担していた。