いとも簡単に公権が私有財産を侵害する

 所得水準が年々上昇している中国では、2010年以降、ペットを求める家庭が急速に増え、2020年にはペットの数は犬と猫を合わせて1億匹(犬は5222万頭、猫は4862万匹)になった(「2020年中国ペット業界白書」)。多く見積もれば、1億人近い飼い主が存在することになる。SNSで公開された傅さんの動画は、こうしたペットオーナーをはじめ、多くの人々の間で関心を呼んだ。

「殺す必要はあったのか」「動物の命も命に変わりはない」「家族を殺されたも同然」――。明日は我が身と思う飼い主も含めて、反発の声は小さくはなかった。また皮肉なことに、傅さんの新型コロナウイルス検査結果は陰性であり、コーギー犬にも感染はしていなかった。当局が行ったのは実に無益な殺生だった。

 中国社会に与えた波紋はこれだけではない。コロナ禍のドタバタとはいえ、いとも簡単に公権が個人の財産を侵害してしまうことに、多くの国民がざわめき立ったのである。

 中国人ブロガーの一人は「今日、当局者が住居に侵入し1匹の犬を殺せば、明日はさらなる違法行為に出るだろう」と、地方政府に強い不信感を募らせた。

 北京で活動する中国人弁護士の劉昌松氏は中国の雑誌のインタビューに対し、「当局者の行為は『非法侵入住宅罪(家宅侵入罪)』と『故意毀壊財物罪(器物損壊罪)』に当たり、深刻な犯罪ともなり得る。防疫作業とて法律の外に置くことはできず、また防疫作業を理由に公権の乱用をしてはならないはずだ」と答えている。