2020年3月から始まった中国・雲南省のアジアゾウの群れの放浪は今なお続いている。さまざまな被害が出ているにもかかわらず、なぜ中国当局は「ゾウの動くまま」を見守り続けているのか。(ジャーナリスト 姫田小夏)
今なお続くアジアゾウの放浪
「異変が起きていることを人間に伝えている」
西双版納(シーサンパンナ)タイ族自治州に所在する「シーサンパンナ国家級自然保護区」(1958年設立、総面積約2500平方キロメートル)を後にしたアジアゾウ16頭の群れは、移動の途中で赤ちゃんゾウが誕生し17頭となり、その後3頭が元の生息地に引き返すなどの過程を経て、現在は14頭で移動中だ。
高速道路を横切ったり、大通りを練り歩いたり…。そのたびに当局は道路を封鎖し、この“珍客”を優先的に通行させた。畑を荒らしまわったり、農家に闖入したりしていたずらもした。SNSでは、テーブルや椅子がひっくり返され、乾燥トウモロコシが床に散乱する室内の様子や、割れた窓ガラスや崩れてしまった家屋の様子が拡散された。熟成中の酒かすを大量に食べ、酔っ払って爆睡したゾウもいたという。
実は、雲南省のアジアゾウの徘徊は今に始まったことではない。「北京青年報」によれば、「シーサンパンナ国家級自然保護区の62.4%のゾウが生息地を離れてさまよったことがある」という。
雲南省の野生のアジアゾウはなぜ生息地を離れ、人間界で放浪を続けるのか。アフリカゾウの研究者で30年以上もケニアでフィールドワークを続けてきた酪農学園大学特任教授の中村千秋氏は、「アジアゾウとアフリカゾウは分類こそ違いますが、行動パターンは共通するところもあります」とし、次のように語る。
「野生動物は、もともと人間が好きではありません。それがわざわざ人間の生活圏に姿を現すということは、元の生息地において十分な雨や食べ物、飲み水がなくなっているなどの要因が考えられます。ゾウの生活場所に異変が起きていることを人間に伝えているようにも思えます」