経営改革を成し遂げるために
必要な3つの要素

 かつて生産者の力が強かった時代は、「コスト+利益=売値」だった。だが、今やそれは逆になった。消費者が値段を決める時代だ。だから「売値ー利益=コスト」で考えなければいけない。

 カルビーの大きな経営方針の転換の根源は、私たち消費者の変化であったことを示す松本氏の言葉である(*2)。仮に消費者、あるいは消費者とカルビーの間を取り持つコンビニが1袋100円と値段を設定したとする。それでもメーカーとして15円の利益を出したければ、コストをいかに85円に抑えるかが企業側の思考の対象のすべてとなる。カルビーの場合はそれが売上高原価率の低減にあり、そのための主たる戦略は工場の稼働率の向上であったというわけだ。

 松本氏はカルビーを退任したが、「2030ビジョン」では、連結売上高営業利益率13%、国内営業利益率15%を目標として掲げており、売上高営業利益率を重視するカルビーの経営姿勢に変化はない。

 課題である海外事業の拡大(2030年に海外売上高比率25%を目指す)のための先行投資も含むため、連結の利益率目標は13%にとどめているが、この数値自体が日本の食品メーカーでは突出して高い目標値であることは変わらない。国内工場の稼働率の向上による利益率アップのストーリーは終了した。海外事業、新製品、新事業に力点を置いた、次なるカルビーの利益率ある成長に焦点は移ってこよう。

 松本氏はあるインタビュー記事の中で、松本氏が「とくに注意深くチェックしている項目」は何かと質問された際、下記のように答えている(*3)。

 各指標の成長をみています。利益の成長、売上の成長、EPS(1株あたり純利益)の成長。あとは工場稼働率、製造原価率、マーケットシェア。それくらいですよ。指標が多すぎると知恵が出てきません。
 数字は正直です。急に増えたり減ったりする現象には、必ず理由がある。それはなんなのか。自分で仮説を立てて、現場に行って検証する。仮説が正しければ、それにそってアクションを起こす。これも単純なことです。

 読者の現在の仕事において、知恵が出る指標とは、果たして何であろうか。数値から仮説を立てること、現場で検証すること、そして必ずアクションに結びつけること。これらのどれもが同等に重要であって、どれ1つが欠けても松本氏の成し遂げた経営改革は実現しなかったものであろう。数値の仮説構築⇒現場検証⇒アクションの3つのグッド・サイクルにおいて、経営指標はその中枢の役割を担っているのである。

(本稿は、『企業価値向上のための経営指標大全』から一部を抜粋・編集したものです)

参考文献
*1 「カルビー『いかに儲けるか』商売の原点と向き合い続けた1500日」『プレジデント』プレジデント社、2013年12月16日号
*2 「経営新潮流ーカルビー 松本 晃の経営教室ー第1回 『仕事』の棚卸しー日本の会社は捨てるものだらけ」『日経ビジネス』日経BP社、2013年9月9日号
*3 「プロ経営者が語る『おてんとさま理論』日本人プロ経営者・松本カルビー会長」INOUZ Times、2016年 https://inouz.jp/times/calbee/