営業利益率2桁を実現させた
松本氏の「グッド・サイクル」

 松本氏からの実に手厳しい言葉だが、ではどうすればよいのか。松本氏は具体的な実行計画を策定し、組織に納得をさせ、そして結果を出したという点において、その経営手腕が高く評価されているのだろう。松本氏は自身が行ったことは、いたって単純であると表現することが多い。具体的に実行したことについては、以下のように語っている(*2)。

 従来は販促費を抑えて、店頭での販売価格が下がらないようにするのが「良い営業」だったようです。だからカルビーの製品は、ポテトチップスであればライバルの製品が1袋88円なのに100円を超えていました。販売価格を維持することで利益を増やすという考えなのでしょうが、実際はそうなっていなかった。そこで私は、競争できる値段に下げて、売上を増やす方針に変えました。これでシェアが回復すれば値下げしても利益は増えます。
 その年に買える量のジャガイモはすべて買うことにしたのです。全部買ったうえで、全部製品にして、全部売る。そうすれば生産量が増えますから工場の稼働率が上がり、原価が下がって利益が増える。同時に販促費も増やしたし、売れ残りそうであれば値下げしてでも売り切ることにしました。

 松本氏の言葉を図表2にまとめたのが、売上高営業利益率の飛躍的な向上に向けたグッド・サイクルである。これが順当に機能したのであれば、売上高の上昇⇒売上原価率の低下(売上高総利益率の向上)⇒売上高販管費率の増加(販促費を増やす意思)⇒売上高営業利益率の飛躍的上昇が実現することとなる。

「儲からない典型」の菓子事業で、カルビーの利益率が異常に高い理由とは図表2 カルビーの売上 営業利益率向上のグッド・サイクル

 松本氏がカルビーCEOに就任した2009年から退任する2018年までの売上高営業利益率と、その構成要素となる売上高総利益率、売上高販管費率を示したのが図表3である。

「儲からない典型」の菓子事業で、カルビーの利益率が異常に高い理由とは図表3 カルビーの売上 営業利益率の動き

 売上高営業利益率のピークであった2016年、2017年3月期は11.4%であったため、残念ながら松本氏が目指したグローバルスタンダード15%には到達しなかった。しかし、日本の食品大手で売上高営業利益率2ケタを達成している企業はほとんど存在しない現状と照らせば、いかに大きな功績を残したうえでの退任だったのかが実感できよう。