マス向けの宣伝広告費を減らしてまで
増やしたかった費用とは何か
また、販管費に目をやると(図表4)、売上高の成長以上に一貫して上昇を続けているのは販売促進費である一方、一貫して減少しているのは広告宣伝費である。
ポテト系スナックでは7割を超える圧倒的な国内シェアを持つカルビーを知らない人はまずいない。マスに対して広告宣伝による認知を高めることではなく、コンビニやスーパーといった量販店の棚に確実に商品を置いてもらうことの優先順位がはるかに高い。
ましてや、大量に生産を行う戦略、比較的賞味期限の短いスナック菓子、そして軽くて安い割には棚のスペースを占有するポテトチップスである。販促費という形で流通業者にリベートを振り向けることで、確実に棚を取っていこうというマーケティング戦略である。
同時にカルビーは工場の稼働率を上げるために、小売業のPB(プライベート・ブランド)にも積極的な協力姿勢を示している。一般にPBを請け負いすぎると自社のナショナル・ブランドのシェアが侵食されるだけでなく、自社ブランド製品開発への意欲や技術も失われていく可能性がある。ナショナル・ブランドメーカーはどちらかと言えばPBに対してあまり積極的ではない。
しかし、カルビーはNB、PB問わずにトータルでの販売シェアと生産シェアに重きを置いているように見受けられる。これもまた、圧倒的なシェアNo.1であるからこそ貫くことのできる方針であろう。
有力なナショナル・ブランドを抱えるメーカーであれば、自社の製品価格を下げ、販促費を積み増すことで利益率を上げていくという手法は受け入れがたいものかもしれない。すべての食品メーカーは、カルビーと同様のことを行うべきとは決して思わない。ポテトチップスにおいて圧倒的なシェアNo.1メーカーであったこと、稼働率の低い工場が全国に点在していたこと、原料はジャガイモに集中し国産限定が原則のため原料を押さえることが成功要因であったこと、製造そのものがそれほど複雑ではなく原料調達と工場の稼働率が主たる成功要因であったこと、加工食品などと違って菓子はし好品であり、パイを拡張することが可能であったことなど、さまざまな要因がカルビーの実行策を成功に導くファクターとして寄与したものと考える。
ただし、これらは業界の誰もが多かれ少なかれ気づいていた事実であろう。問題はそれを組織として的確にとらえ、事業計画に発展させ、そして実行して結果を出すことにある。既存のカルビーのインサイダーだけではこれを確実に遂行することは難しい。そう考えたうえでの創業家であり、当時の大株主による松本氏招へいの判断だったのかもしれない。