「そんなに大変なら転職すればいい」ができない理由
バク:私自身もメンタルダウンしたことがありますが、やっぱり渦中にいると「自分が悪い」としか思えないですよ。
というか、もし渦中にちゃんと気がつけていたら、病気にもならないでしょうしね。
わび:うん、わかります。
よく、パワハラされてボロボロになってもなお会社を辞めずに働き続けている人に対して、「そんな状況になる前に転職すればいいのに」という人がいるじゃないですか。
でも、パワハラ地獄に陥ると、そのような選択肢がまったく出てこなくなるんですよ。
たぶんこれは、重度のパワハラ経験者でないとわからない感覚だと思います。
私なんて、パワハラを受け続けていたとき、「あの車にはねられたら、仕事に行かなくていいかな……」と考えてしまうくらい、思考回路がおかしくなっていました。
上司に会うより、交通事故のほうがマシと本気で思うようになるんです。自分が飲む缶コーヒーの種類すら選べないんですよ、怖くて。「このコーヒーを選んだら怒られるんじゃないか」と不安になってしまって。
バク:人は怒られすぎると、怒られないようにしか動けなくなりますからね……。
わび:とにかく、まともな思考ができなくなっているから、「私の努力が足りないだけ」「私の代わりはいない」「いつかきっとわかってもらえる」と思い込んで、パワハラされているという紛れもない事実があっても、「全部私が悪いから」という原因に結びつけてしまうんです。
バク:私もメンタルダウンしたとき、「これって私が悪いんじゃなくて、環境のせいでは?」と気がついたのは、病気が治ってからでした。
それまでは、とても「自分が悪いんじゃない、周りが悪いんだ」なんて確信は持てなかった。
自己肯定感を低くする呪いの言葉って、心の奥底の柔らかい所に刺さったすごく細かいトゲみたいに、抜くのがめちゃくちゃ難しいんですよ。
だからこそ、情報源をひとつに絞らないのがすごく大事で。
ずっと同じ環境に居続けて、ずっと同じ人からの言葉を浴び続けていると、「正解」はそれしかないみたいに思い込んでしまう。他の選択肢が入り込む隙がなくなるんです。
私がツイッターや書籍でこまめに発信しているのも、「もしかして、おかしいのは自分じゃなくて、上司なんじゃないか」「環境が合わないだけなんじゃないか」という考えが少しでも浮かんだその一瞬に、私の言葉が届いたらいいなと願っているからなんです。
その瞬間に目に触れた「おかしいのはあなたじゃないよ」という言葉で、今本当に苦しんでいる人が、もしかしたら救われるかもしれない。
わび:うんうん。私もそれはすごく伝えたいです。パワハラって怖いですよ、本当に。
一度メンタルが壊れると、ものすごく重い足かせを付けることになる。パソコンに例えるなら、メモリ不足で動作が遅くなる感じなんですよね。
何かやろうとしてもよけいな不安が入り込んで、通常の何倍も時間がかかるようになる。
そして、この足かせはなかなか外れません。