衆院選後の政権がどうなるか、読者が本欄を目にするころには方向性は定まっているだろう。選挙に向けたこの1カ月、次期首相と目された安倍晋三自民党総裁は、従来の次元を超えた金融緩和でデフレ脱却を果たすと繰り返し強調した。

 インフレ目標を2%に設定し、政府・日銀が協定を結び、日銀はこのインフレ目標を達成するまでお札を刷り続け、建設国債を全部買い取るという公約である。市場では主に海外勢がこれに素直に反応した。そして「安倍トレード」と称される82円台の円安と日経平均株価で9500円超の日本株高が実現した。

 海外投機筋や既存の取引ポジションの調整の動きは速く、円は自然な相場形成を逸脱して下落した。上のグラフが示すように、過去数年にわたりドル円相場の適正水準を示唆する指標であった米国債2年物利回りは0.2%台半ば、対ドル78~79円と整合する水準にとどまっていた(米国債の需給はFRBの追加緩和観測でゆがんでいるものの)。この円急落の背後で、海外投機筋は早々に円売りポジションを従来の上限を超える水準まで積み上げた(下のグラフ参照)。

 ただし、この勢いで円安と日本株高が続くとは想定し難い。過剰な円売りポジションを抱えてなお円安が永らえるには、一段の円安材料の燃料補給で円売り回転を促す必要がある。しかし最も強い燃料と目された米雇用(7日発表)が予想より強かったのに、ドル円は11月22日の高値を更新できなかった。

 売りポジションが増えているのに円が安くならなかったというズレは相場修正の兆候となる。目先80~83円で膠着した相場となるとみている。ロンドンの街中の立て看板でおなじみの「Mind the gap(段差注意)」をもじって、海外勢には金利とポジションの二つの段差への注意を呼びかけた。