「三方よし」ならぬ「五方よし」?経営者の高齢化に備えて地銀に何が必要か写真はイメージです Photo:PIXTA

事業承継にはナラティブが必要

「後継者難」という課題に対し、世間にはさまざまな「対策」がある。しかし、ほとんどが対症療法でしかない。本質はそのような状態にならない社会を構築することだ。本連載では、一貫して対症療法に頼らない「健康な経営体質づくり」を推奨してきた。そして、家業を親族内で末長く継承していけるよう、ビジネスを営むファミリーの気持ちの側面を強調してきた。

 収益的にも健全な家業を廃業や売却によって手じまいすることは、事業を営むファミリーの終焉(しゅうえん)を意味する。雇用者側から被用者側へ180度転換することを選択するのは、自家の心のよりどころが希薄だからなのではないか。

 家業に限らず、およそ事業にはヒト・モノ・カネといわれる経営資源以前に、「なぜその事業を営むのか」という理念がある。家業における心のよりどころは、言うまでもなく先祖が事業を立ち上げた背後にあった「情熱」である。これが適切に伝承されていないから家業に思い入れを感じないどころか、理念がときには厄介者に見えてくる。伝承に当たっては、ニュートラルな事実を淡々と伝えていくよりも、将来のどんな世代に対しても苦労と喜びを心情に訴えるようなナラティブ(物語)を用いたリレーが望ましい。