中国・上海では、今年の春節需要で高級イチゴがよく売れたという。人気の品種は私たちにもなじみのある『紅ほっぺ』。だが、残念ながら日本からの輸入品ではない。中国ではイチゴ以外にも日本品種の果物が流通している。2021年、日本から輸出される農産物や食品はついに1兆円の大台を突破したが、日本品種が出回る中国市場への日本の食品ブランドの輸出はますます困難な状況になっている。(ジャーナリスト 姫田小夏)
中国で当たり前に流通する日本並みの高級果物
春節直前の中国は、1年で最も食品が売れる時期である。今年、上海では春節休みを前に高級イチゴがよく売れていた。中には60粒で228元(約4100円)という「紅ほっぺ」もあった。ネットやSNSで販売を手掛けた中国の事業者はこう話す。
「日本品種の『紅ほっぺ』がとても人気でした、1粒4元(約73円)前後ですが、ものが良かったのであっという間に売り切れました」
1パックに15粒、真っ赤なイチゴが整然と並べられた容器を、イラスト入りの紙帯で巻き、4パック一組で箱売りをする。整えられた体裁はまさに“晴れの日”の需要にふさわしい。
ところが、パッケージのどこにも日本語の表記が見当たらない。それもそのはず、「紅ほっぺ」とは言っても日本からの輸入ではなく、産地は四川省・大涼山だからだ。見た目も美しい高級イチゴは中国でも生産できるようになっているようだ。
イチゴだけではない。中国では高級ブドウも人気だ。化粧箱に入れられた、2房で300元(約5400円)前後の「シャインマスカット」は、まさに高価な贈答用フルーツの趣だ。わざわざ日本語による説明も施された商品もあり、あたかも日本からの輸入物と思わせる。
しかし、日本から中国に輸出できる果物はリンゴとナシに限られている。中国で流通する「紅ほっぺ」も「シャインマスカット」も、日本から持ち出された種や苗木をもとに中国で栽培が進められたと見るのが妥当だ。しかしこの“無断栽培”は2021年4月に改正種苗法が施行される前までは、違法行為として取り締まることはできなかった。
昨年の春になって、ようやく種や苗木の海外持ち出しに刑事罰が科されるようになった。