農家の後継者不足によって、作物が育てられなくなった土地が長期間放置される「耕作放棄問題」が深刻化している。また農水省によれば2020年度のカロリーベースの食料自給率は37%だった。米の大凶作に見舞われた1993年度や2018年度に並ぶ過去最低水準だといわれている。連載『農業 大予測』の#4では、営農が困難な中山間地の耕作放棄地を再生するため、中山間地だからこそ可能になる収益性の高い作目・作付けをする、逆転の発想による「営農モデル」の確立について私の考えを述べる。(マイファーム代表取締役 西辻一真)
放棄地で「普通の農業」をやっても再生は困難
「東京でやったら怒られること」が正解かも
耕作放棄地の話をする前に、農水省に対して少し注文をつけたい。何かというと、近年、耕作放棄地が禁句になってきている点だ。農業をやる人たちには、耕作放棄地が共通するキーワードだった。しかし最近、農水省は表現を変更して、「荒廃農地」という。
耕作放棄地というのは1年以上使っていなくて、この先も使う予定がない土地のことを指す。一方、荒廃農地というのは荒れてもう利用することが不可能な農地のこと。前提として、荒廃農地と耕作放棄地では農地の種類が違う。
全農地はだいたい450万ヘクタール、そのうちの10%は耕作放棄地で、5%は荒廃農地だ。
耕作放棄地は、15年ぐらい前は38万ヘクタールだったのが今は43万ヘクタールに増えている。しかし、農水省はその実情を言いたくないのか、途中から荒廃農地という言い方を新たに追加して、「荒廃農地は20万ヘクタールです」と言いだした。これは非常にもったいない。耕作放棄地が「この先も使う予定がなくなる」のは、既存の農業の枠組みでならそうなる、というだけで、用途の限定をしない枠組みを増やせば、耕作放棄地の再利用が可能になるのに、と思う。発想を転換しないかぎり、荒廃農地では、獣害や土壌流出が繰り返され、最終的には耕作放棄地になってしまう。
このような現状を踏まえた上で、私が伝えたいのは、耕作放棄地ではやってはいけないことがあるということだ。一番良くないのは、「耕作放棄地に新規就農者をつけますよ」と言っている人たちだ。プロが挑戦してダメだった農地を新規の素人にやらせるのは愚の骨頂だ。
プロが諦めている場所を新規就農者に任せるならば、従来の農業と同じやり方でやらせてはいけない。まったく違う発想で違う事業をすることを考えるべきだ。
例えば、山奥で幽霊が出そうな場所があるとする。発想の転換をすると、その場所は、「人がいないので混線することがないネット環境が抜群な場所」と言い換えることができる。そこでホスティングサーバーの仕事や何かしらのサイトの運営をするなら最適な場所になるはずだ。そういった具合に、耕作放棄地では従来とは違う多様な事業ができるようにもっていく必要がある。
そのためには、法の規制を緩め、周辺からの外圧も減らし、地代もできれば無料にする仕組みが必要だ。私は、耕作放棄地のことを社内でずっと、“ファンタジー農地”と呼んでいる。「成功しても失敗しても誰も怒らない、夢のある場所」という意味だ。新しい発想で、今までやっていなかったことを行う試験の場所として、耕作放棄地を活用すべきだ。くれぐれも真面目な人に、既存の農業スタイルで耕作放棄地の再生をやらせてはいけない。