農業のコアは営業である

 大畑氏の志は、地方の農家の高齢者を幸せにすることだった。幸せの元手となるのは「もうけ」である。どうすれば、一人一人が確実に売り上げを上げる道筋をつくることができるか――。そう考えて出た答えが「営業」だった。

「いろどりで働いていて気付いたのは、日本の農業には“売る力”が圧倒的に不足しているということでした。いいものを作ろうという気持ちはあるのですが、そこで止まっているんです。その先の“売る仕組み”を作らなければ、農家の皆さんが幸せになることはない。そんなふうに考えました」

 現在、いろどりは「上勝情報ネットワーク」というシステムによって、全国の市場情報を一人一人の農家と共有し、需要をつかめるようにしている。生産したものを無駄にせず、農家の努力を確実に売り上げにつなげるこの仕組みによって、上勝の農業は収益性の高いものに変容したのである。

 18年11月に大畑氏がいろどりを退社したのは、その「売る仕組み」を上勝町だけでなく日本各地で展開して、全国の高齢者が生き生きと働ける社会をつくりたいと考えたからだ。独立後に単身立ち上げたのが、農家の営業支援を行う「産地のミカタ」である。

幻のキノコで現実のマーケットをつくり出せ!ハナビラタケを作っている大井川電機製作所の工場

 農家の営業を支援するには、農産物の大消費地に足場を築く必要がある。そこで、まず大畑氏がアプローチを試みたのが開場したばかりの東京の豊洲市場だった。市場でアルバイトをしながら産地のミカタの営業ルートをつくろうと考えたわけだ。しかし、営業基盤ができる前に生活基盤が崩壊した。

「売り上げが上がる前にお金がなくなって、当時結婚していた妻にしばらくは頼っていたのですが、間もなく結婚生活も危うくなって、逃げるように実家に帰りました」

 大畑氏の実家があるのは静岡県島田市である。そこにはまた、大井川電機製作所(以下、大井川電機)の本社と工場があった。