犯罪心理学から読み解く
ロシアの真の思惑とは?

「力による強制」について理解を深めてもらうために、簡単な思考実験をしてみましょう。次の(1)~(3)を、「支払ってしまいそうな順」に並べてみてください。

(1)学校で不良からカツアゲされ、たばこ代1000円を要求された
(2)町中の裏通りで不良からカツアゲされ、たばこ代として1000円を要求された
(3)駅で見知らぬ人から、「帰りの切符代がない」と声をかけられ、1000円を要求された

 すべて本人の損失額は1000円ですが、たいていの人は、「支払ってしまいそうな順」に並べると、(3)→(2)→(1)の順に並べます。

(3)は、寸借詐欺の典型的な手法です。損失額は同じ1000円なのに、「力による強制」である(1)・(2)に比べ、払ってしまいやすいどころか、「いいことをした」と思い込んで、詐欺にあったことにすら気付かない人が多い。これに比べると、(1)・(2)の「力による強制」には、「奪い取られた」という負の心理がつきまといますから、要求に応じにくいですし、恨みも残りやすい。

 さらに、(1)・(2)を比べてみましょう。やはり損害額は1000円なのに、(1)より(2)のほうが人は払ってしまいやすいし、警察にも行きにくい。なぜかというと、「繰り返される」可能性が低いからです。人間は、「将来の影」におびえる生き物です。街角でたまたま出くわした不良なら、1回限りで1000円払ってしまうかもしれませんが、何回も顔を合わせる学校内の不良からカツアゲをされると、「1回限りでは済まないだろう」と考えます。それでも、思い悩んだ揚げ句に払ってしまう可能性はありますが、少なくとも(3)や(2)より「払う」という決定をしにくい。

 この例え話で何がいえるかというと、「力による強制」は略奪感を伴い、さらに「将来の影」が加わると、人は要求をのむことが困難になる、ということです。