検察側は、ゴーン被告が10年に1億円以上の役員報酬を報告書に記載するよう義務付けた「個別開示制度」が導入されたことを受け、巨額報酬への批判を懸念。真実の報酬を隠蔽(いんぺい)するため、ゴーン被告の指示を受けたケリー被告が主導し、未払い報酬の開示を避けつつ確実に支払う方法を検討、準備し、元秘書室長らに支払いのための文書作成を命じたと指摘した。

 対するケリー被告の弁護側は、支払い方法を検討したことは認めたが、合法的な方法を探るためだったと主張。報告書に記載した報酬のほかに未払い分は存在せず、日産側と正式な支払いの合意もなかったと反論し、文書作成への関与も否定していた。

 以上が事件の概要だ。

ケリー被告はゴーン被告を絶賛
日産は「私利私欲と自己保身」と指弾

 初公判が開かれたのは、ゴーン被告がレバノンに逃亡した約9カ月後の20年9月15日。ケリー被告は「私は共謀に関与していない」などと起訴内容を全面的に否認。約10分にわたり、用意した資料を英語で朗読した。

 その中で「元会長ほど優れた経営者はいなかった」「20年にわたって日産を率い、多くの利益をもたらした」「強いリーダーシップで、革新的な製品を世に送り出した」などとゴーン被告を礼賛。加えて「自分の重要な役割は、元会長を日産につなぎ留めることだった」と強調した。

 一方、日産側の弁護人は、起訴内容を認めた。そして、ゴーン被告を「豪腕経営者として知名度を誇ったが、私利私欲と自己保身を目的に虚偽情報を開示し続けた」と指弾。一連の事件は「経営者の不正事案」と被害者的な立場を主張し、業績をV字回復させた立役者を一刀両断にした。

 9月29日の公判には、真実の証言をする代わりに起訴しないとの司法取引を交わした元秘書室長が出廷。証人尋問でゴーン被告の報酬について「(1)確定した報酬、(2)支払い済みの報酬、(3)未払いの報酬があった。未払い報酬は開示を避け、どうやって支払うか検討した」と説明した。