また、報酬の支払い方法について画策することになったきっかけは「ケリーさん(からの指示)」と明言。個別開示制度導入の際「日本人の感覚として元会長の報酬はいくらが妥当か」と質問され「10億円を超えない額にすべき」と答えたと明らかにした。これを受け、具体的な開示の回避策などを整理し、実行するよう指示されたという。

 さらに、報酬開示の回避策を検討し始めたことについて「金融証券取引法の趣旨に反すると感じていた」と述べ、検察側の主張を追認した。

弁護側証人の学識者は
「虚偽記載ではなく不記載」の見解

 10月16日の公判では、09~14年度の未払い報酬の累積分について、ケリー被告からインセンティブ制度を使って支払うよう指示され、計約8000万ドル(約92億円)を計上。しかし、国税当局の税務調査で詳細を質問され、説明できないため計上を取り消したと明らかにした。

 理由については、税務調査前に監査法人からインセンティブ制度の支給対象者について尋ねられ、リストを改ざんして提出。税務調査で「元会長のための費用と分かってしまう。取り繕えないと思った」と説明した。

 11月10日からは、元秘書室長に対する弁護側の尋問が開始された。しかし、弁護側の追及に対して「違法だった」との認識を維持。08年度から報酬の管理に関わったが、リーマンショックが起きたのに07年度分を超えそうだったため、ゴーン被告から「外から見える数字を減らすよう」指示され、3億8000万円をいったん会社に戻し、年度をまたいで支払うなど具体的な手口を明かした。

 21年4月22日には、弁護側証人として東大の田中亘教授(会社法)が出廷し「金銭報酬はここ(報告書)に記載のある支払いだけで、仮に未払いがあっても真実に反する虚偽記載ではない」と説明。その上で「重要事項の記載を欠いた『不記載』にしか該当せず、刑事罰が科される虚偽記載には当たらない」との見解を示した。

 5月11日の公判では、検察側がゴーン被告の「参考の数字だ」「(支払いが)約束されたわけではない」などと違法性を否定する供述調書を朗読。調書は、報酬を10億円以下にした理由を「大衆からの批判を避けるため」「従業員のモチベーションを維持するため」とした。